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相続

特別受益

30年前に一人だけ留学費用を出してもらった点や25年前に500万円の自宅土地の贈与を受けた点などは,「特別受益」として,相続分の前払いを受けたと扱われます。相続税の申告のケースと異なり,遺産分割においては,相続から何十年前の贈与であっても,相続の際に考慮されることになります。

特別受益

事例

 先日,ある男性が亡くなり,遺産は3000万円ありましたが,その相続人は,その男性の妻,長男,次男,長女の4人でした。父母と同居している長男は,大学卒業後である30年前,アメリカの大学にも留学させてもらい,その費用は700万円かかり,全て父親に出してもらっていました。次男は,大学卒業後,就職・結婚しましたが,25年前に次男の自宅を建てる際,父親名義だった500万円の土地を贈与してもらって,その上に自宅建物を建てていました。長女は,大学卒業後,結婚し,夫の実家で暮らしていましたが,特に父親の生前に財産をもらったことはありませんでした。この場合,長女は,長男や次男より,多くの財産を受け取ることができないのでしょうか。

この事例を聞いた太郎さんの見解

 長女は,長男,次男より多くの財産を相続することはできないのではないでしょうか。そもそも,長男の留学費用は30年前のことで,次男の自宅土地の贈与も25年前のことですから,そんなに昔の話が今回の相続に影響することはないと思います。

この事例を聞いた花子さんの見解

 長女は,次男より多くの財産を相続することはできるでしょうが,長男より多くの財産を相続することはできないのではないでしょうか。昔の話でも,自宅土地の贈与を受けた次男は,それだけ受け取る財産は少なくなって当然だと思います。でも,長男の留学費用については,兄弟全員が大学を卒業させてもらっている訳ですし,勉強のための費用が理由で受け取る財産が少なくなるというのは,長男がかわいそうだと思います。

弁護士の見解

 今回のケースでは,長女は,長男・次男のどちらよりも多くの財産を受け取ることができると思います。
 長男が30年前に700万円の留学費用を出してもらった点と,次男が25年前に500万円の自宅土地の贈与を受けた点ですが,法律用語では,これらは「特別受益」というものにあたることになります。この「特別受益」は,相続分の前払いを受けたと扱われるもので,相続から何十年前の話であっても,相続の際に考慮されることになります(なお,相続税の申告においては,3年前までの贈与のみが考慮される扱いになっているようですが,遺産分割においては,このような期間の制限はありません。)。次男の自宅土地の贈与も相続分の前払いと扱われますし,長男のアメリカ留学費用も1人だけ特別な教育を高額な費用で受けているので,やはり相続分の前払いと扱われると思います。
 今回のケースは,単純計算すると,妻は2100万円,長男は0円,次男は200万円,長女は700万円の財産を受け取ることができることになります。

 ・妻の取得分
  (遺産3000万円+長男の特別受益700万円+次男の特別受益500万円)
  ×1/2
  =2100万円

 ・長男の取得分
  (遺産3000万円+長男の特別受益700万円+次男の特別受益500万円)
  ×1/6-長男の特別受益700万円
  =0円

 ・次男の取得分
  (遺産3000万円+長男の特別受益700万円+次男の特別受益500万円)
  ×1/6-次男の特別受益500万円
  =200万円

 ・長女の取得分
  (遺産3000万円+長男の特別受益700万円+次男の特別受益500万円)
  ×1/6
  =700万円

※本記載は平成30年3月5日現在の法律・判例を前提としていますので,その後の法律・判例の変更につきましてはご自身でお調べください。

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