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相続

遺留分(全財産を1人に相続させる遺言)

民法では,全財産を1人のお子さんに相続させる遺言があった場合でも,それ以外のお子さんにも遺留分といって一定割合の遺産を相続できる権利が保障されています(民法1028条)。ただし,遺留分減殺請求は,相続が開始したことと自身の遺留分を侵害する贈与などがあったことを知った時から1年以内にしなければいけません(民法1042条)。

遺留分(全財産を1人に相続させる遺言)

事例

 Aさんには3人の娘がいます。Aさんは妻に先立たれた後,Aさんの自宅で長女夫婦と同居することなり,老後の生活を共に過ごしていました。そのため,Aさんは自分の財産をすべて長女に相続させたいと考えるようになり,その内容の遺言を作成しました。
 Aさんには,自宅の土地建物(時価:土地建物合わせて1200万円)と預貯金(600万円)の財産があります。
 Aさんはすべての財産を長女に相続させることができるのでしょうか。

この事例を聞いた花子さんの見解

 自分の財産を誰にどの程度相続させるかはAさんの自由だと思いますので,すべて長女に相続させることができるのではないでしょうか。

この事例を聞いた太郎さんの見解

 たしかにAさんの財産なんですが,長女以外の姉妹もAさんのお子さんであることに変わりはないのですから,Aさんの財産を相続する権利はあると思います。ですので,あまりに不公平にならないように,すべてを長女に相続させることはできないと思います。

弁護士の見解

 今回のケースでは,Aさんはすべての財産を長女に相続させることはできない可能性が高いと思われます。
 民法では,長女以外のお子さんにも遺留分といって一定割合の遺産を相続できる権利が保障されています(民法1028条)。お子さんが相続人のケースでは,遺産の全体の1/2が遺留分の対象となります。つまり,長女を含んだお子さん3人は少なくとも遺産の1/2を取得する権利が保障されています。そのため,お子さんが3人いるわけですから,それぞれその1/3,すなわち遺産の1/6(1/2×1/3)を取得する権利が保障されています。ですので,長女以外の2人のお子さんは,Aさんの遺言があったとしても,遺産の1/6に相当する300万円分については,取得することができます。
 ただし,長女以外のお子さんの遺留分を侵害してしまうとしても,Aさんの遺言が無効になるわけではありません。遺留分を受け取る権利は,請求をしてはじめて保護されます。遺留分減殺請求というんですが,長女以外のお子さんがそういった請求をしなければ,長女はすべての遺産を取得することができます。遺留分減殺請求は,相続が開始したことと自身の遺留分を侵害する贈与などがあったことを知った時から1年以内にしなければいけません(民法1042条)。つまり,長女以外のお子さんが,Aさんが亡くなったことと遺言の内容を知った時から1年以内ということになります。

花子さんの質問

 長女が全ての遺産を取得できるかどうかは,Aさんが亡くなった後に長女以外のお子さんが遺留分減殺請求をするか次第ということですが,Aさんの生前に何か対策をする方法はないんでしょうか。

弁護士の説明

 突然遺言がでてきて,自分たちは何も相続できないということになれば,長女以外のお子さんもAさんの意図を汲みきれず,納得できないというように考えてしまうこともあるかもしれません。そのため,Aさんが生前に長女以外のお子さんに事情を説明して納得してもらえれば,家庭裁判所から遺留分放棄の許可を得て,あらかじめ長女以外のお子さんに遺留分の放棄をしてもらう方法が考えられます(民法1043条)。
 ただし,この場合も,Aさんが生前に長女以外のお子さんに相当額の生前贈与をしたなどの事情が,家庭裁判所の許可にあたって必要とされるのが通常ですから,確定的に長女に全ての財産を相続させることは難しいと言わざるを得ません。

※本記載は平成30年5月26日現在の法律・判例を前提としていますので,その後の法律・判例の変更につきましてはご自身でお調べください。

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