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無料求人広告の有料への自動更新と詐欺取消・公序良俗違反無効

事業者間による,無料求人広告の掲載が2~3週間後などに有料サービスに自動更新されるといった広告掲載契約については,民法上の詐欺取消(民法96条1項)により,広告申込をした小規模事業者を救済した裁判例(那覇簡判令和3年10月21日)や公序良俗違反による契約の無効(民法90条)を認めた裁判例(東京地判令和元年9月9日)などがあります。

無料求人広告の有料への自動更新と詐欺取消・公序良俗違反無効

事例

 学童クラブの運営等を営む法人Aは,インターネット広告業等を営む法人Bから,法人Bが運営しているインターネット求人広告サイトへの求人広告の無料掲載をしませんか,と電話勧誘を受けました。
 法人Aは,最初は勧誘を断っていたものの,普段から人手不足に悩み,求人を出してもなかなか応募者がいない状況が続いていたこともあり,段々とこの電話勧誘に興味をひかれるようになりました。そして,法人Bからの説明では,この求人広告申込みでは一切無料で費用がかからないかのような説明であったため,無料のサービスならと思って,法人Bの求人広告の無料掲載サービスを利用することにしました。
 そして,法人Aは,法人BからFAXされてきた求人広告の掲載サービスの申込書面に必要事項を記入し,どうせ無料ならと思って求人広告を2件分掲載する内容にして,法人BにFAXの返信をしました。法人Bは,法人AからのFAX申し込みを受け,法人Bが運営しているインターネット求人広告サイトへ,法人Aの2件分の求人広告の掲載をしました。
 そうして,掲載してもらった求人広告への応募もないまま2週間が経過したところ,突然,法人Bから求人広告掲載料として33万円の請求書が届きました。
 驚いた法人Aが,法人Bに問い合わせをしたところ,2週間の求人広告無料掲載期間が終わり,有料掲載の契約に自動更新されたため,掲載料を請求したものだ,との言い分でした。法人Bの説明によると,FAXでやり取りした申込書面には,次のような約定が標題より小文字のフォントではあるものの明記されている,ということでした。
・本件求人情報を掲載する期間は,契約申込書記載のご掲載日から14日間(以下「1単位(一部)期間」と記載)とし,法人Aまたは法人Bから契約終了日の4日以上前に書面での申し出がない限り,1単位(一部)毎に自動更新され掲載期間は14日間,以後の更新も同様とする(第3条)。
・法人Aは法人Bに対し,本件委託業務の対価として,被告が選択した1単位(一部)期間毎に求人情報の掲載料金を支払う。また,1単位(一部)期間毎の求人情報掲載料金は,「2週間プラン」150,000円(税別)とする(第4条)。
・法人Bが別途定める無料キャンペーンが適用される場合,本件求人広告にかかる初回掲載期間「1単位(一部)期間」の掲載料金は発生しないが,法人Aにおいて第3条が規定する自動更新を拒絶する手続を経ない限り更新後の掲載料金が当然に発生する(第6条)。
 確かに,FAXの申込書面を改めて確認すると,上記のような内容は書かれていましたが,法人Aとしては,有料サービスへの自動更新がされるなどという説明は,法人Bからの電話勧誘の際には一切されていなかったことに納得がいきません。
 法人Aは,法人Bから請求された33万円の求人広告掲載料を支払わなければいけないのでしょうか。

この事例を聞いた花子さんの見解

 法人AがFAX返信した申込書面には,自動更新により有料サービスになることが明記されていたわけですし,色々なサービスが一定期間の無料キャンペーン経過後,有料となるというのは,よく目にする契約形態ですので,今回の法人Bの契約形態に特別に不自然な点があるわけでもなく,法人Aには33万円の求人広告掲載料を支払う義務があると思います。

この事例を聞いた太郎さんの見解

 法人Bからの電話勧誘の際には,自動更新により有料サービスに移行することの注意喚起はされていなかったのですから,クーリング・オフのような救済があっても良いのではないかと思います。

弁護士の見解

 今回のケースでは,法人Aは33万円の求人広告掲載料を支払わなくても良い可能性があります。
 まず,太郎さんの指摘されているクーリング・オフについてですが,Aが事業者たる法人ではなく,個人消費者であった場合には,特定商取引法により義務付けられている書面交付(特定商取引法18条,19条)から8日以内であればクーリング・オフができ(特定商取引法24条),今回,法人Bは特定商取引法の法定書面の交付はしていませんので,Aはクーリング・オフにより救済される可能性はあります。
 しかし,今回のAは個人消費者ではなく事業者たる法人ですので,特定商取引法のクーリング・オフによる救済規定は適用されず(特定商取引法26条1項1号),その他,消費者契約法などの消費者保護のための法律も適用されないんです。

太郎さんの質問

 それでは,どうして法人Aは33万円の求人広告掲載料を支払わなくても良い可能性があるのでしょうか。

弁護士の説明

 今回のケースと類似の事案に関して,民法上の詐欺取消(民法96条1項)により法人Aを救済した裁判例があるんです(那覇簡判令和3年10月21日)。
 その裁判例では,「法人Bは,法人Aに対し,電話口で本件求人広告掲載の利用料は無料であることのみ強調し,無料掲載期間終了後は解約手続きを事前に取らない限り,自動的に有料契約に移行するとの解約ルールについてはなんら説明をしなかった。そして,無料である旨誤信した法人Aに対し,電話勧誘後,即座にファクシミリで法人Bに対し申込みの送信をさせ,本件求人広告掲載契約を締結させたものである。」「本件と同様なインターネット求人広告の掲載料を巡るトラブル(無料求人広告トラブル)に関し,平成31年4月から令和元年11月25日にかけて厚生労働省や全国求人情報協会,毎日新聞等のマスコミ及び沖縄県弁護士会を含む各県の弁護士会が法人Bらの勧誘手法が事業者の錯誤に付け込んだ商法である旨の注意喚起を大々的に行っていた事実が認められる。法人Bが法人Aに無料求人広告掲載の電話勧誘をかけてきたのは,…前記のとおり,各県の弁護士会や公的機関が法人Bらのような勧誘手法が,無料求人広告トラブルとして社会問題になっているとして広く国民に,注意喚起を行っていた期間である。そこで,法人Bにおいても当然自身の行っている勧誘手法に指摘されている問題があることは十分に認識していたと認められ,それにもかかわらず,法人Bが無料を前面に押し出した勧誘を従来どおり行ったことに鑑みると,法人Bには勧誘によって法人Aを錯誤に陥らせようとする故意があったこと,法人Aに対し,『無料』という言葉を強調することにより,法人Aの関心が自動更新や有料契約に自動移行することについて意識が向かないように誘導し,法人Aの錯誤によって契約申込みをさせようとする故意があったと認められる。」「法人Aは本件広告掲載契約日までに法人Bから3度も勧誘電話を受け,その都度広告掲載料金は『無料』と強調されていたこと,そして,法人Bに無料であることを確認して本件広告掲載契約の申込みをしたと述べる。法人Aは法人Bから広告掲載料金は『無料』という言葉を強調されたことにより,本件広告掲載契約の条項を読むまでもないと意識づけられたといえる。すなわち,自動更新や有料契約に自動移行することについて意識が向かないように誘導された結果,電話勧誘を受けた法人Aは,法人Bとの本件求人広告掲載契約について,無料期間が終了する4日以上前までに書面で更新拒否を通知しなければ自動更新となり,有料契約に自動移行されてしまうという契約内容であることを全く理解していなかった。法人Bは,法人Aの錯誤をその不作為(説明せず沈黙していること)によって深めて,本件契約の申込みをさせたと認められる。」などと判示されています。
 今回のケースに関する上記裁判例は,特定商取引法や消費者契約法などの消費者保護の法律による救済の無い小規模事業者による契約締結について,通常は相当にハードルの高い民法による詐欺取消の適用を認めたもので,小規模事業者の被害の救済に1つの道筋を与える画期的な裁判例といえると思います。
 その他にも,今回ケースのような無料求人広告トラブルについて,公序良俗違反による契約の無効(民法90条)を認め,広告業者側の請求を排除した裁判例(東京地判令和元年9月9日),また,小規模事業者による無料求人広告掲載申込のFAX返信がされていたものの,掲載される広告の内容について当事者間で合意が成立していないとして,かかる掲載される広告内容の合意の成立を停止条件とする求人広告掲載契約は,停止条件が成就しておらず,効力を生じていない(民法127条1項)として,広告業者側の請求を排除した裁判例(東京地判令和元年11月13日)などもあり,消費者保護の法律による救済の無い小規模事業者による契約締結について,救済の道を広げようとする裁判例の流れができつつあるといえる状況です。

※本記載は令和3年11月17日現在の法律・判例を前提としていますので,その後の法律・判例の変更につきましてはご自身でお調べください。

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