自転車事故

事例

　Ａさんの小学校５年生の息子Ｂくんが，坂道を自転車に乗って下っていたとき，反対方向から坂道を歩いて登ってきていた歩行者である６０代の女性Ｃさんに正面衝突してしまいました。Ｂくんは，坂道を時速２０～３０㎞の速いスピードで下っていて，前をよく見ていませんでした。そして，Ｃさんは，自転車との衝突の衝撃で地面に転んで，頭を強く打ってしまい，打ち所が悪かったこともあり寝たきりになってしまいました。
　後日，Ａさんは，Ｃさんの親族から，１億円の損害賠償の請求を受けてしまいましたが，Ａさんはこれを支払わなければいけないのでしょうか。

この事例を聞いた花子さんの見解

　子どもの不始末は，親の責任でもありますので，Ａさんは，損害賠償をしなければならないとは思いますが，子どもの乗っていた自転車で起きた事故ですから，さすがに１億円の賠償という話にはならないと思います。
　お詫びの範囲内で，３０万円くらいの賠償になるんじゃないでしょうか。

この事例を聞いた太郎さんの見解

　やはりＡさんは，損害賠償をしなければならないと思いますし，さらに，Ｃさんは寝たきりになってしまったんですよね。そのことを考えると，１億円は無いにしても，数百万円くらい，例えば３００万円くらいの賠償はしなければならないんじゃないでしょうか。

弁護士の見解

　このケースでは，お二人が言われるとおり，Ａさんは，Ｃさんの損害を賠償しなければなりません。
　問題はその額なんですが，子どもの乗っていた自転車の事故だからとバカにすることはできません。自転車での事故も，自動車での事故と同じような賠償基準で，損害額が計算されるんです。
　このケースと同じような事例で，約９５００万円の賠償を命じた判決が出されたこともあるんです。
　その判決では，主だった損害の内訳として，①後遺症の慰謝料（後遺障害慰謝料）は２８００万円，②将来得られたはずの収入額（後遺障害逸失利益）は約２１９０万円，③将来の介護費は約３９４０万円などと判断しています。その他，多数の損害項目を合計して計算し，総額約９５００万円の賠償を，子どもの親に命じたんです。
　その他にも，自転車の事故で，数千万円単位の賠償を命じた判決はいくつもあるんですね。

花子さんの質問

　自転車の事故も，自動車の事故と同じに考えるという話ですが，自動車の事故の場合，保険でカバーされますよね。
　自転車の場合はどうなんでしょう。突然，子どもの起こした事故で，１億円近い賠償をしなければならないなんて話になったら大変ですよね。自転車での事故をカバーする保険なんてあるんでしょうか。

弁護士の説明

　自転車の事故をカバーする保険はあります。
　身近なところで言えば，自動車の任意保険の特約で，自転車の事故をカバーする保険などもありますね。このような自動車の任意保険の特約の場合，大抵，同居家族全員をカバーしますので，このような特約を付けておいた方が安心ですね。
　その他，自転車事故自体を対象とする独自の保険もありますので，検討してみるといいと思います。
　子どもが自転車で事故を起こすなんていう話は，ありがちな話なんですが，そのリスクの大きさを意識されている方は少ないと思います。この機会に，自転車事故の賠償のリスクについて考えてみていただければと思います。

※本記載は平成３０年７月２１日現在の法律・判例を前提としていますので，その後の法律・判例の変更につきましてはご自身でお調べください。