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交通事故

交通事故の賠償と念書

物損の交通事故の賠償には,相手方の車の新車買換費用は含まれません。賠償の対象となる「損害」は,修理費,事故車の評価損,代車費用などに過ぎません。損害項目の一つである事故車の評価損も,新車買換費用には遠く及ばず,裁判例上は,「修理費に対する一定割合」,通常は修理費の20%から40%に相当する分だけを,評価損として賠償の対象とするという考え方をとるものが多いんです。

交通事故の賠償と念書

事例

 休日に車で買い物に出かけていたAさん。ぼーっと考え事をしていて,前の車が赤信号で止まっていたのに気づかず,前の車に追突してしまいました。前の車の凹みはそんなにヒドくはなかったのですが,問題はその車が高級外車であったこと。さらには,車の中からサングラスをかけた,いかにもな感じのコワモテのおじさんが登場してきました。
 おじさんは,凄みのある関西弁でまくしたて,Aさんに「今回の事故の損害は全額弁償いたします。」という念書を書くように要求。Aさんは,恐くなって,そのとおりの念書を書き,言われるがまま,住所・氏名・電話番号も書きました。
 それでも,対人・対物無制限の任意保険に入っていたので,保険会社が対応してくれるだろうから大丈夫と考えていたAさん。しかし,後日,そのおじさんから電話がかかってきて,「保険会社が,車の買い換え費用は面倒見切れへん言うんや!修理費50万円とそれに多少の上乗せがある言うとるけど,そんなんで足りるかい!書いた念書どおり,同じ車に買い換える費用1000万円払えや!!」と,ドスの利いた声で要求されました。確かに,車の下取りをして貰い,新車を購入するには,差額の1000万円が必要なようですが,Aさんはこれを払わなければいけないんでしょうか?

この事例を聞いた花子さんの見解

 Aさんは,念書で損害を全額弁償すると書いて渡しているんですから,今さら言い逃れできないんではないでしょうか。おじさんが新車に買い換えるために,1000万円必要なのは事実のようですし,不当な請求を受けている訳でもないと思うんですが。

この事例を聞いた太郎さんの見解

 私は,念書があるとはいえ,1000万円も払う必要はないと思います。発生した損害は,保険会社の言っている「修理費50万円と多少の上乗せ」ということになるんでしょうから,任意保険を使って,保険会社にその分だけ賠償して貰えばよいと思います。ただ,恐いおじさんに凄まれている状況からすると,これを突っぱねる勇気も無いんですが。

弁護士の見解

 今回のケースでは,Aさんは,1000万円全額を支払う必要はないと思います。
 Aさんが書かされた念書は「今回の事故の損害は全額弁償いたします。」というもので,法律上,「今回の事故の損害」には新車買換費用は含まれないからです。「今回の事故の損害」は,ほぼ保険会社が言うとおりで,修理費,事故車の評価損,代車費用などに過ぎません。損害項目の一つである事故車の評価損も,新車買換費用には遠く及びません。裁判例上は,「修理費に対する一定割合」,通常は修理費の20%から40%に相当する分だけを,評価損として賠償の対象とするという考え方をとるものが多いんです。
 ですので,Aさんとしては,自腹を切って新車買換のための上乗せ金を支払う必要はなく,保険会社におじさんへの賠償金を支払って貰うだけでいいんです。

太郎さんの質問

 法律上,支払義務がないことは分かるんですが,恐いおじさんに凄まれている状況では,普通,断る勇気は出てこないと思うんです。何か対応するためのコツのようなものはあるんでしょうか。

弁護士の説明

 今回のケースのおじさんのような恐い方々は,実は,自分の要求が法律上通らないということは,誰よりもよく分かっているんです。ですので,こういう方々に要求を突きつけられたら,「弁護士に相談した上で,対応をさせていただきます。」と答えるのが一番だと思います。
 また,今回のケースでは,おじさんは,いかにもな感じで,Aさんを脅してお金を出させようとしていますので,おじさんの行為は恐喝罪(刑法249条)にあたります。警察は,民事不介入などと言って動いてくれないことも多いんですが,今回のケースのように,恐い方々が関わっている場合は,迅速に動いてくれることが多いんです。

※本記載は令和元年7月13日現在の法律・判例を前提としていますので,その後の法律・判例の変更につきましてはご自身でお調べください。

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