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債権回収

保証債務と消滅時効

本来,債務の承認などによる時効の中断は,原則として,本人や本人から権利を受け継いだ人にしか効果は生じないとされています(民法第148条)。しかし,保証人のいる主債務者が,時効完成前に債務の承認をしていた場合,保証債務の附従性により,主債務者の債務の承認による時効の中断の効力は,保証人の保証債務にも及ぶことになります(民法第457条)。

保証債務と消滅時効

事例

 BさんとAさんは昔からの古い友達であり,BさんはAさんから100万円を借りていました。Aさんは当初Bさんから担保を取る気はありませんでしたが,知人の勧めもあり,Bさんの妹のCさんに数日後に保証人になってもらいました。
 その後,AさんはしばらくBさんに請求をしないままに時間が経ち,Aさんがお金を貸してから9年が過ぎました。ある日,Aさんは知人から,お金を貸してから10年が経つと時効になって返してもらえなくなると聞きました。そこで,AさんはBさんに対してお金を返してもらえるか聞いてみたところ,Bさんは保証人のCさんに相談することなく,近いうちに必ず返すとAさんに答えました。
 Aさんは知人から,相手が債務を承認すれば時効の進行はその時点からやり直しになると聞いていたので安心していましたが,2年後にはBさんは多重債務に陥り,返済が不可能となってしまいました。
 Aさんは周囲の勧めもあり,やむなくCさんに請求をしましたが,Cさんは,もう貸付から11年が経っているし,自分は債務の承認をしていないので返済義務は無いとして支払いを拒んでいます。
 CさんはAさんに対して法律上,返済を拒むことが出来るでしょうか。

この事例を聞いた花子さんの見解

 Bさんが債務を承認したのは,Cさんが知らないところでBさんが勝手に決めたことなので,Cさんは,Bさんに代わって,Aさんに借金を返す必要は無いと思います。

この事例を聞いた太郎さんの見解

 Cさんがした保証契約は,Bさんが負った債務が消えない限りは効力が続くと思いますので,CさんはBさんに代わって,Aさんに借金を返す必要があると思います。

弁護士の見解

 今回のケースの場合,CさんはBさんに代わって,Aさんに借金を返す必要があると考えられます。
 本来,債務の承認などによる時効の中断は,原則として,本人や本人から権利を受け継いだ人にしか効果は生じないとされています(民法第148条)。
 ところが,今回のケースでは,CさんはBさんの債務を保証しています。法律上,保証債務には,保証の対象となる債務に一定の事由が生じた場合に,保証債務にもその債務と同様の効力が生じる「附従性」という効力が認められています。そして,この附従性により,法律上,保証債務のみが時効により消滅することが防止されていて,Bさんの債務の承認はCさんの保証債務にも効力が及ぶことになります(民法第457条)。その結果,Cさんの保証債務についても消滅時効は完成せず,CさんはAさんに保証契約に従って借金を返す必要があるんです。

花子さんの質問

 それでは,今回のケースでBさんが債務を承認したのが時効が完成した後だった場合には,CさんはAさんに借金を返す必要は無くなるのでしょうか。

弁護士の回答

 はい。その場合であれば,CさんはAさんに対して消滅時効が完成したことを主張することで,Aさんに対して借金を返す必要は無くなります。
 Bさんは自らの債務を承認したことで,判例上,時効完成を主張出来なくなるとされています(最判昭和41年4月20日)。それは,時効完成後に債務の承認があった場合,債権者も債務者はもはや時効完成を主張しないとの期待を抱くことから,信義則上,その債務について時効完成を主張することは許されないと考えられているからです。時効完成前の債務の承認と時効完成後の債務の承認では,時効完成の主張が出来ないことには変わりませんが,その理由は違うんです。
 そのため,時効完成後には,時効完成の主張をできるかどうかは個々で判断することになるので,時効完成後の債務の承認によって時効完成の主張ができなくなるのは,債務の承認をして,債権者に時効完成の主張をしないとの期待を抱かせたBさんのみであり,その効力はCさんには及びません。CさんはAさんに対して時効の完成を主張することで,支払いを拒むことができるんです。

※本記載は平成30年5月12日現在の法律・判例を前提としていますので,その後の法律・判例の変更につきましてはご自身でお調べください。なお,本記載は令和2年4月1日の改正民法施行前の条項を前提にしています。

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