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債務整理

連帯保証人の消滅時効と時効援用

個人間の貸金は,返済日から10年経過すると時効となります(民法166条,167条1項)。ただし,10年が経過すれば自動的に時効となって返済義務を免れるというものではなく,10年が経過した後に時効の権利を行使することを債権者に伝えて初めて返済義務を免れることになります(民法145条)。

連帯保証人の消滅時効と時効援用

事例

 Aさんは,友人のBさんから,「車を購入するためにCさんから100万円借りようと考えているが,Cさんから連帯保証人を求められているので連帯保証人になってくれないか」と頼まれました。Bさんによれば,Cさんに1年後に100万円を返済する予定だということでした。Aさんは悩みましたが,Bさんが必ず自分が返済するから迷惑はかけないと必死に頼んでくるので,仕方なく連帯保証人になることを承諾しました。
 しかしながら,それから12年が経ち,Aさんも連帯保証人になったことをすっかり忘れていましたが,Cさんから突然,Bさんの代わりに100万円を返して欲しいという連絡がきました。Cさんによると,「Bさんには,100万円を1年後に返済するという約束でお金を貸したが,いまだに返済を受けていない。Bさんとは友人なので返済が厳しいのであれば仕方ないと思い,約束の日までに返済がなくても何も言わず待っていたが,さすがに先月返済についてBさんと話をしたところ,今月から月4万円ずつ返済するという話になった。それにもかかわらず,今月も返済がなく,自分もお金が必要になったので連帯保証人であるAさんに返済してもらうしかないと考えている。」ということでした。
 11年も前に返済しなければならなかったBさんの借金を今さら突然返済するよう言われ,Aさんは困ってしまいましたが,Aさんは100万円をBさんの代わりに返済しなければいけないのでしょうか。

この事例を聞いた花子さんの見解

 BさんがCさんに100万円を返済しなければならなかったのは,11年も前の話です。返済予定日からかなりの期間が経っていますので,これはすでに時効になっており,返済しなくてもいいのではないでしょうか。

この事例を聞いた太郎さんの見解

 確かに,返済予定日からかなりの時間が経っているんですが,Bさんは月4万円ずつ返済すると先月Cさんと約束していますので,BさんにはCさんに返済する義務があると思います。なので,連帯保証人であるAさんもBさんが返済する義務を負う以上は返済をしなければいけなんじゃないでしょうか。

弁護士の見解

 今回のケースでは,Aさんは,100万円を返済しなくてもよいと思います。
 個人間の貸金は,返済日から10年経過すると時効となります(民法166条,167条1項)。ただし,10年が経過すれば自動的に時効となって返済義務を免れるというものではなく,10年が経過した後に時効の権利を行使することを債権者に伝えて初めて返済義務を免れることになります(民法145条)。もし,返済日から10年を経過していても時効の権利を行使することを債権者に伝える前に返済すべき債務があることを認めてしまうと,その後に時効を主張することはできなくなってしまいます(最判昭和41年4月20日)。それは,時効完成後に債務の承認があった場合,債権者も債務者はもはや時効完成を主張しないとの期待を抱くことから,信義則上,その債務について時効完成を主張することは許されないと考えられているからです。
 今回のケースでは,Bさんは返済日から10年経過した後に月4万円ずつ返済するとCさんに約束をしており,これは返済すべき債務があることを認めたことになります。しかしながら,本件のような時効完成後の債務の承認の場合は,信義則の問題である以上,時効完成の主張をできるかどうかは個々で判断することになるので,時効完成後の債務の承認によって時効完成の主張ができなくなるのは,債務の承認をして,債権者に時効完成の主張をしないとの期待を抱かせたBさんのみであり,その効力はAさんには及びません。そのため,Aさんは時効の権利を行使することをCさんに伝えることで返済義務を免れることになります。

太郎さんの質問

 Aさんは時効の権利を行使することをCさんに伝えることで返済義務を免れるということですが,Cさんに伝える際に注意することはありますか。

弁護士の説明

 口頭で伝えても時効の権利を行使したことにはなりますが,後日の紛争を防ぐためにも時効の権利を行使したことを形として残すことが大事だと思います。
 具体的には,内容証明郵便を利用するなどして,時効の権利を行使することを債権者に伝えるなどの方法が考えられます。

※本記載は平成30年9月29日現在の法律・判例を前提としていますので,その後の法律・判例の変更につきましてはご自身でお調べください。なお,本記載は令和2年4月1日の改正民法施行前の条項を前提にしています。

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