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離婚

権利者側の再婚・養子縁組と養育費の減額・免除の始期

養育費の権利者が再婚し,子どもが再婚相手と養子縁組をした場合,それ以降は子どもの扶養義務は第一次的には養育費の権利者・再婚相手が負い,反射的に義務者は養育費の支払義務を免れるため,原則として,養子縁組の時点に遡って養育費の支払義務が免除されます(最決平成30年6月28日,東京高決平成30年3月19日,千葉家審平成29年12月8日)。

権利者側の再婚・養子縁組と養育費の減額・免除の始期

事例

 会社員のAさんは,15年前に当時の奥さんだったBさんとの間で離婚訴訟を行い,訴訟上の和解により離婚しました。その際,AさんとBさんとの間の幼い長男と長女の親権者はBさんにして,子どもたちの養育費として1人あたり月2万円の養育費を支払う内容の和解をしました。
 しかし,Aさんは収入が不安定だったこともあり,Bさんとの離婚後,全く養育費を支払うことができていませんでした。
 そんな中,Aさんは,Bさんから,離婚後2年ほどしてBさんが収入も十分な大企業で正社員として働くCさんと再婚し,長男と長女もCさんと養子縁組をしたことを聞きました。
 Aさんは,それならもう自分が子どもたちの養育費を払ってあげる必要はないだろうと考え,その後も訴訟上の和解で決まった養育費を全く支払いしませんでした。
 そうしているうちに,何と元奥さんのBさんから過去10年分の養育費を請求する通知が届いてしまいました。
 Aさんは,この養育費の支払いを免れることはできないのでしょうか。

この事例を聞いた花子さんの見解

 裁判までして和解した養育費を全く払っていなかったわけですし,養子縁組をしても子どもたちとの父子関係が無くなる訳ではありませんから,Aさんは養育費を支払わなければならないと思います。

この事例を聞いた太郎さんの見解

 過去10年分を一気に請求してくるBさんにも問題があると思いますし,再婚相手のCさんも大企業で正社員として働いていて十分な収入も得ている訳ですから,Aさんは養育費を支払わなくてよいと思います。

弁護士の見解

 Aさんは,養育費を支払わなくてよい可能性があります。
 養育費に関する権利義務の内容は,身分関係等一定の扶養要件から当然に発生するものではなく,協議ないし審判によって具体的に形成されるものですので,一旦協議ないし審判(民法766条1項,2項)によって定まった養育費額については,事情変更の事実があったとしても当然に権利義務の内容が変更されるものではなく,別途協議ないし審判がなされない限り,その権利義務の内容に変更はありません。
 もっとも,その権利義務の変更の始期(いつから権利義務が変更になるか)を協議の成立時点ないし審判確定時点に固定しなければならないわけではなく,その始期を事情変更の事実が生じた時点,あるいは変更の申立て時点等に遡らせることも可能と考えられています。
 この点,事情変更の内容によっても始期は変わると思われますが,基本的には,①始期を請求時(調停・審判の申立時,裁判外での請求時など)とする裁判例(東京高決平成28年12月6日など,婚姻費用について大阪高決昭和32年12月27日,仙台高決昭和31年2月29日など)と,②始期を事情変更時とする裁判例(札幌家裁小樽支審昭和46年11月11日,東京家審昭和34年4月13日など,婚姻費用について東京高決平成16年9月7日など)とに大きく分かれており,一般的には①の始期を請求時(調停・審判の申立時,裁判外での請求時など)とする考え方をとる裁判例が多いといわれています。

太郎さんの質問

 しかし,今回のケースについて,Aさんが養育費を支払わなくてよい可能性があるということは,今回のケースでは②の始期を事情変更時とする考え方が適用される可能性があるということでしょうか。

弁護士の説明

 はい。
 今回のケースと類似するケースに関する裁判例で,養育費増減額の変更の始期については,原則として事情変更時に遡及するとしたうえで,生じた事由が権利者と義務者いずれの側に生じたものか,変更事由についての反対当事者の認識の有無,当該変更事由の内容や性質,遡及期間の養育費の支払状況,権利者側の生活保持状況及び遡及期間内の他の新たな変更事由の有無等を総合して,公平の観点から遡及効を制限すべき場合が存するものと解すると判断して,子どもたちが再婚相手と養子縁組をした時から養育費が免除になると判断した裁判例があり,最高裁もこの判断を認める決定をしているんです(最決平成30年6月28日,東京高決平成30年3月19日,千葉家審平成29年12月8日)。
 つまり,この裁判例の判断を今回のケースに当てはめて考えると,Bさんは13年前にCさんと再婚し,子どもたちはCさんと養子縁組をしていることから,それ以降は長男及び長女の扶養義務は第一次的にはBさん及びCさんが負うことになるため,原則として,反射的にAさんは養育費の支払義務を免れることになります。例外として,子どもたちとCさんの養子縁組が解消されたりCさんが死亡したりするなどCさんが客観的に扶養能力を失った場合等に限り,Aさんは,子どもたちを扶養するため養育費を負担すべきものと考えられます。
 この点,BさんCさん世帯については,Cさんの給与は十分な額ですし,子どもたちとCさんの養子縁組が解消されたりCさんが死亡したりした事情はありませんから,今回のケースでは,Aさんの養育費支払い義務は免除になると思われます。
 また,今回のケースでは,Aさんの扶養義務を免じる事情変更の事由は,Bさんの再婚相手であるCさんと長男及び長女との養子縁組という専らBさん側の事情に基づくものですし,Aさんは,訴訟上の和解で決まった養育費を支払っていなかったため,養子縁組時まで変更を遡及させても,Bさんが多大な過払金返還債務を負うなど不測の損害を被る事態は生じません。
 加えて,BさんがCさんと再婚した後,BさんはAさんに再婚・養子縁組の事実を伝えていますが,その事実を伝えられた時点以前は,Aさんが養育費減額の調停・審判の申立てを行うことはそもそも不可能ですし,その時点以降については,一般私人であるAさんにしてみれば,養子縁組によって長男及び長女に養父が出来たことを知れば,もはや自分の責任はなくなったと考え,別途減額の協議・審判が必要であることに思い至らなかったとしてもやむを得ないと考えられます。
 このようなことから,今回のケースでは,Aさんは,Cさんと子どもたちの養子縁組の時まで遡って養育費が免除されて,養育費を支払わなくてよい可能性があると思われます。
 なお,子どもが養子縁組をしたことによる養育費支払義務の免除の始期を,請求時(調停・審判の申立時,裁判外での請求時など)とすると判断した裁判例(東京高決令和2年3月4日)も近時出されています。しかし,この事案は,義務者側は権利者側から子どもが再婚相手と養子縁組をする予定である旨を養子縁組をする前ころに既に聞かされていたが,義務者は,養子縁組の有無を調査し,養育費支払義務の免除を求める調停・審判の申立てをすることもなく,養子縁組後も月額18万円の養育費を3年以上(40か月)にわたって支払い続け合計720万円にものぼる養育費を支払った後になって養育費免除の調停申立をしてきた事案でした。そのため,養子縁組時を免除の始期として,既に支払われて費消された過去の養育費につきその法的根拠を失わせて多額の返還義務を生じさせることは,権利者側に不測の損害を被らせることになること,さらには,この事案では,むしろ義務者側は,養子縁組の成立時期等について重きを置いていたわけではなく,実際に養育費免除の調停を申し立てるまでは,子どもらの福祉の充実の観点から合意した養育費を支払い続けたものと評価することも可能なこと,などを考慮して,例外的に養育費支払義務の免除の始期を,請求時(調停・審判の申立時,裁判外での請求時など)とすると判断した裁判例であると考えられます。

花子さんの質問

 ところで,今回のケースでは,Bさんは10年分だけ養育費の請求をしていましたが,養子縁組がされた13年前の分から養育費が免除になっても,Bさんとしては,15年前からの2年分を請求できそうにも思えます。Bさんは,訴訟上の和解をした15年前の分から請求はできなかったのでしょうか。

弁護士の説明

 今回のケースでは,訴訟上の和解により養育費を決めていますが,そのようなケースでも消滅時効期間が10年間と定められているんです(令和2年4月1日施行の新民法169条,旧民法174条の2)。
 なお,訴訟上の和解などによらず,離婚協議書や公正証書などの裁判外の合意により養育費を決めていた場合には,令和2年4月1日施行の新民法が適用になる同日以降に成立した合意であれば,消滅時効期間は10年間とされていますが(新民法168条),同日より前に成立した裁判外の合意による場合は消滅時効期間は5年間とされていますので注意が必要です(旧民法169条。なお,公正証書によった場合に旧民法174条の2が適用にならないと判示した裁判例として東京高判昭和56年9月29日)。

※本記載は令和3年2月3日現在の法律・判例を前提としていますので,その後の法律・判例の変更につきましてはご自身でお調べください。

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