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離婚

夫婦間の贈与契約の取消

夫婦間の契約はいつでも取り消しをできるとされています(民法754条)。しかし,取り消しをできる夫婦といえるためには,形式的に夫婦関係が継続しているというだけではなくて,実質的にも夫婦関係が継続していなければいけません(最判昭和33年3月6日)。また,夫婦関係が破綻した後では,贈与の時期に関係なく,取り消しができなくなります(最判昭和42年2月2日)。

夫婦間の贈与契約の取消

事例

 Aさんは夫と結婚して20年になりますが,3ヵ月ほど前に夫の浮気が発覚したことから夫婦関係が悪化し,Aさんは離婚の決意をして夫と離婚の話し合いをしていました。しかしながら,先日Aさんの夫は話し合いが途中であるにもかかわらず,自身の署名押印のある離婚届とAさんと暮らしていたAさんの夫名義の土地建物をAさんに贈与するという自筆の書面を置いて家を出ていってしまいました。
 その後,Aさんは夫名義の土地建物を自分の名義に変更する手続に協力するよう夫に言いましたが,夫は贈与を撤回すると言って,手続きに協力してくれません。
 Aさんは夫名義の土地建物を取得することはできないのでしょうか。

この事例を聞いた花子さんの見解

 Aさんの夫は書面で一度贈与すると約束しているのですから,簡単に撤回はできないと思います。ですので,Aさんは夫名義の土地建物を取得できるのではないでしょうか。

この事例を聞いた太郎さんの見解

 離婚の危機に瀕しているとはいえ,夫婦の間でのことなので,一度約束したら撤回できないというのも厳しいと思いますので,Aさんは夫名義の土地建物を取得できないのではないでしょうか。

弁護士の見解

 このケースでは,Aさんは夫名義の土地建物を取得できると思います。
 まず,贈与契約は口頭でした場合には,実際に贈与するまでは,いつでも撤回することができますが,書面による贈与の場合には原則として撤回できません(民法550条)。
 ただ,民法では夫婦間の契約はいつでも取り消しをできるとされていますので(民法754条),Aさんの夫は土地建物の贈与を取り消すことができるようにも思えます。しかしながら,取り消しをできる夫婦というのは,形式的に夫婦関係が継続しているということではなくて,実質的にも夫婦関係が継続していなければいけません(最判昭和33年3月6日)。今回のケースでは,夫が浮気をしたことからAさんは離婚を決意して,その話し合いをしていますので,Aさん夫婦の夫婦関係はすでに破綻していると判断される可能性が高いと思います。そのため,実質的に夫婦関係が継続しているとは言えないと思いますので,Aさんの夫は贈与を取り消すことはできません。

花子さんからの質問

 今回のケースでは,贈与自体が夫婦関係が破綻してから行われていると思いますが,夫婦関係の良好なときに行われた贈与を夫婦関係が破綻してから取り消すことはできるんですか。

弁護士の回答

 それもできません。
 夫婦間の契約では,実際に贈与をした後でも取り消すことができるんですが,夫婦関係が破綻した後では,贈与の時期に関係なく,取り消しができなくなります(最判昭和42年2月2日)。

※本記載は平成31年1月19日現在の法律・判例を前提としていますので,その後の法律・判例の変更につきましてはご自身でお調べください。

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