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離婚

一旦放棄した養育費の請求

法律上,養育費を含む扶養を受ける権利は処分することが出来ないとされています(民法第881条)。裁判例にも,子どもの母親が,父親に対して養育費の請求をしない旨の念書を差し入れた場合でも,子どもが父親に対して具体的必要に基づいて養育費の請求をすることは妨げられないと判断がされたものがあります(札幌高裁昭和43年12月19日決定)。

一旦放棄した養育費の請求

事例

 AさんとBさんは6年前に結婚し,二人の間には2歳の子どもであるCさんがいました。BさんはAさんの親族と同居をしていましたが,結婚当初から,Aさんの親族がBさんにつらく当たる毎日が続いたため,ついに,BさんはAさんに対して離婚をしたいと話を持ちかけました。Aさんは離婚をすることには応じましたが,絶対に養育費は支払わないと強く主張したため,Bさんは,やむなく養育費の請求はしない旨の念書をAさんに渡した上で,Aさんと離婚しました。
 その後,Bさんは自治体からの給付金とパートでの給料でCさんを養っていましたが,Cさんが中学校に入学した直後に,体調を崩してしまい,パートをやめることになってしまいました。
 そこで,養育費の請求はしない旨の念書を書いたBさんに代わり,子どもであるCさん自身が,当面の生活費に充てる予定で,Aさんに養育費の請求をしようと考えています。このCさんの請求は認められるでしょうか。

この事例を聞いた花子さんの見解

 BさんとCさんの境遇はとても気の毒だと思いますが,母親であるBさんが養育費の請求をしない旨の念書をAさんに渡していることから,法律上,養育費の請求をすることは難しいと思います。

この事例を聞いた太郎さんの見解

 確かに,Bさんは養育費の請求をしない旨の念書をAさんに渡していますが,養育費はAさんの子どもであるCさんが受け取るもので,CさんはAさんに対して何の約束もしていないことから,Aさんに対して養育費を請求することが出来ると思います。

弁護士の見解

 今回のケースでは,CさんはAさんに養育費の支払いを請求できると思います。
 養育費とは,未成熟な子どもが独立して生計を立てる能力を得るまでに必要な費用のことをいいます。そして,法律上,この養育費を含む扶養を受ける権利は処分することが出来ないとされています(民法第881条)。裁判例にも,子どもの母親が,父親に対して養育費の請求をしない旨の念書を差し入れた場合でも,子どもが父親に対して具体的必要に基づいて養育費の請求をすることは妨げられないと判断がされたものがあります(札幌高裁昭和43年12月19日決定)。
 あらゆるケースで請求が認められるというわけではありませんが,今回のようなケースでは,養育費を請求しない旨の念書が渡されていても,CさんはAさんに養育費の支払いを請求できると考えられます。
 なお,Cさんは未成年なので,請求は,親権者であるBさんがCさんに代わって行うことになります。

花子さんの質問

 CさんはAさんに対して養育費の請求をできるとのことでしたが,Aさんが養育費の支払いに応じなかった場合には,Cさんには何か取れる手段があるのでしょうか。

弁護士の回答

 Aさんが養育費の支払いにどうしても応じない場合には,最終的には裁判所に,「AさんはCさんに対して養育費を支払え」という内容の判断(審判)を出してもらうことになります。そして,その裁判所の判断に基づいて,Aさんの預金口座や給料を差し押えて,実際にお金を回収していくことになります。
 そのため,Aさんが養育費の支払いに応じない場合には,Aさんの職場などを詳しく把握しておくことが重要になりますね。

※本記載は平成31年3月16日現在の法律・判例を前提としていますので,その後の法律・判例の変更につきましてはご自身でお調べください。

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