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労働問題

解雇権濫用の法理

労働者の解雇については,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当性のない解雇は無効になるという原則があります(解雇権濫用の法理,労働契約法第16条)。また,有期労働契約においても,法律上,「やむを得ない事由」が無ければ契約期間中の解雇は出来ないこととされています(労働契約法第17条第1項)。

解雇権濫用の法理

事例

 A社は,役員の全員が社長のBさんの親族で占められている会社であり,Cさんは,昨年,新入社員としてA社に入社をしました。
 Cさんは,内定の際に「使用者は理由を問わず労働者を解雇することができる」と記載のある契約書を受け取ったため,不安に思っていましたが,他の就職先も見つからなかったため,A社に入社をすることに決めました。
 その後,CさんはA社の中で様々な苦労を経験しましたが,毎日頑張って仕事をして,何とか,1年後には一人前の仕事を任せられるようになりました。
 そのようなある日,Bさんの息子のDさんが役員としてA社に入社をすることになりました。DさんはCさんの容姿を気に入り,毎日しつこくCさんに言いよってきましたが,Cさんは長年お付き合いをしている男性がいたため,Dさんの誘いを丁重に断りました。
 そのことに腹を立てたDさんは,Bさんに告げ口をし,BさんにCさんを突然解雇させました。Cさんは解雇にあたって1カ月分の給料は会社からもらいましたが,納得がいかず,Bさんに抗議をしました。しかし,Bさんは「私たちは1カ月分の給料を払っているから法律を守っているし,契約書にも理由を問わず解雇することができると書いてある。」と言い,Cさんの抗議を聞き入れてくれません。
 A社がCさんを解雇することは法律上認められるのでしょうか。

この事例を聞いた花子さんの見解

 Cさんには気の毒ですが,1か月だけとはいえ余分に給料ももらっているし,最初の契約書にも理由を問わず解雇することができると書いてあることから,解雇は認められると思います。

この事例を聞いた太郎さんの見解

 今回はCさんがあまりにも理不尽な目に遭っているため,たとえ契約書で理由を問わず解雇することができると書かれていても,例外として解雇をすることは許されないと思います。

弁護士の見解

 今回のケースではA社はCさんを解雇することは出来ないと考えられます。
 確かに,使用者が労働者を解雇する場合には,原則として,30日前に予告をするか,30日分以上の平均賃金を支払わなければならないことが法律で定められています(労働基準法第20条第1項)。しかし,このような手続とは別に,判例上,「解雇権濫用の法理」という原則が形成され,現在は法律上の規定にもなっています(労働契約法第16条)。
 解雇権濫用の法理とは,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当性のない解雇は無効になるという原則のことで,これにより,労働者側の落ち度や,使用者の事情等によって解雇の有効性が判断されることになります。したがって,今回のケースのように,契約書に使用者は理由を問わず労働者を解雇できるとの記載がある場合でも,Bさんに落ち度がなければ,A社はBさんを解雇することは出来ないと考えられます。

花子さんの質問

 今回は正社員のケースでしたが,雇用期間が限られているような方のケースの場合でも,先ほどの解雇権濫用の法理は適用されるのでしょうか。

弁護士の回答

 1年間の様な一定の期間に限られている雇用契約は,法律上「有期労働契約」(労働契約法第17条第1項)というんですが,有期労働契約においては,労働者と使用者の間で契約期間の合意をしますので,法律上,「やむを得ない事由」が無ければ契約期間中の解雇は出来ないこととされています(労働契約法第17条第1項)。このやむを得ない事由は厳格に判断されるため,解雇権濫用の法理が適用される場合以上に,契約期間中に不合理な理由での解雇をすることは出来ません。
 一方で,有期労働契約の場合は,契約期間が経過すれば,原則として,契約者双方の事情に関わらず,解雇手続を経ることなく契約が終了してしまうことになります。
 しかし,有期労働契約の中にも,契約が過去に何度も更新されていて,契約が突然終了することが実質的に解雇と言えるような状況になっていたり,原則として皆が契約の更新がされているなどして,契約が継続することが当然であると労働者に期待させるような事情がある場合があり,そのような状況下で,労働者から適切に契約更新の申入れがなされた場合,この申入れは,解雇権濫用の法理と同様の保護を受けることになります(労働契約法第19条第1号,第2号)。
 したがって,契約期間の終了の場面であっても,一定の場合には,不合理な理由で契約の更新を拒絶することはできないことになります。

※本記載は平成30年3月15日現在の法律・判例を前提としていますので,その後の法律・判例の変更につきましてはご自身でお調べください。

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