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労働問題

給料支払いの諸原則

法律上,給料に関しては,「全額払いの原則」というものが定められています(労働基準法24条1項)。また,給料の受け取り口座を,会社の指定する銀行の口座にするように言われることもあるようですが,法律上,給料を口座振り込みにする場合は,「労働者」の指定する銀行口座でなければならないとされており,「会社」が指定することはできないんです(労働基準法施行規則7条の2)。

給料支払いの諸原則

事例

 Aさんは,5年前に夫と離婚し母子家庭で,子どもを育てながら会社員として働いていましたが,子どもが病気を患ってしまい,3ヶ月入院してしまいました。病院での治療のかいあって,子どもは元気になりましたが,Aさんは,子どもの治療費の支払いに充てるために職場の社長さんにお願いをして会社から30万円を借りました。
 その翌月,給料日にAさんが給与明細書を見ると,給料の半額が「借入金返済」として控除されていました。このことを社長さんに尋ねると,「借りたものは返さなきゃいけないのは当然の話でしょ。本当は給料全額を借金返済に充ててもらいたいところだけど,君にも生活があるだろうから,給料の半額だけにしたんだよ。」と言われてしまいました。Aさんとしては,毎月2万円か3万円ずつ返済していこうと考えていたのですが,給料の半額しか受け取れないとなると,今月の生活もたちまち苦しくなってしまいます。
 Aさんは,給料の残りの半額を受け取ることはできないのでしょうか。

この事例を聞いた花子さんの見解

 給料の半額なら借金返済のために差し引かれてもしょうがないんじゃないでしょうか。全額もらえないということなら問題だとは思うんですが,よく漫画なんかで,飲食店のアルバイトが皿を割ってしまったときに,店長から「その分,バイト料から引いておくぞ。」なんて言われる場面が描かれていたりしますよね。今回もこれと同じで,Aさんは諦めるしかないように思います。

この事例を聞いた太郎さんの見解

 社長さんの言うとおり,借りたお金は返さなきゃいけないというのは当然の話でしょうし,給料からの控除はしょうがないとは思います。しかし,Aさんは,給料の半額を差し引かれると,今月の生活も苦しくなってしまうんですよね。Aさんの生活に影響のでない,もう少し少額の控除しか認められないのではないかな,と思います。

弁護士の見解

 今回のケースでは,Aさんは,給料の全額を受け取ることができると思います。
 法律上,給料に関しては,「全額払いの原則」というものが定められています(労働基準法24条1項)。これは,生活の基盤である給料を労働者に確実に受領させるために定められているものです。
 ですので,今回のケースのような給料からの借金の天引きは認められません。また,先程例として挙げられていた,飲食店のアルバイトが割った皿の代金をバイト料から天引きするのも認められないんです。
 ただ,借金は返さなければいけないものであることは変わりありませんので,Aさんは,給料は全額受け取った上で,借金の返済については別途社長さんと協議をしなければなりません。しかし,給料が人質にとられている訳ではないので,自分の希望をきちんと述べればよいと思います。

太郎さんの質問

 給料については,全額払いの原則というものがあるというお話しでしたが,給料支払いについて,他に知っておくべき点はあるんでしょうか。

弁護士の説明

 給料の口座振り込みについての規定もあります。
 例えば,給料の受け取り口座を,会社の指定する銀行の口座にするように言われることもあるようです。会社にとって,給料を振り込むときの振込手数料を安く済ませるために,このようなことを言ってくる会社もあるようなんです。
 しかし,法律上,給料を口座振り込みにする場合は,「労働者」の指定する銀行口座でなければならないとされており,「会社」が指定することはできないんです(労働基準法施行規則7条の2)。

※本記載は令和元年5月11日現在の法律・判例を前提としていますので,その後の法律・判例の変更につきましてはご自身でお調べください。

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