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労働問題

就業規則の定めに基づくボーナスの支給

ボーナスの支給は,就業規則などで規定が定められていることが多く,ボーナスを支給してもらうことが従業員の労働条件となっていることが多いと思います。そして,会社が算定基準や方法を決定するなどして,支給条件や額が明確になっていれば,従業員にはボーナスを請求する権利が発生し,これを就業規則の変更もなく,取締役会の一存で一方的に変更することは出来ないと考えられます。

就業規則の定めに基づくボーナスの支給

事例

 Aさんは,B社に勤務していますが,病気のために入院することになったことから11月1日から有給休暇をとることにしました。
 B社では,毎年6月と12月にボーナスを支給しており,6月のボーナスは前年の10月から3月まで,12月のボーナスは4月から9月までの勤務を対象期間とすることやその支給の詳細はその都度回覧文書で知らせる旨が就業規則で定められていました。そして,10月中旬ころ,12月のボーナスに関する文書が従業員に回覧され,それによると対象期間の出勤日数を基にする金額の算出方法が記載されていました。そのため,Aさんは,11月1日から有給休暇をとっても12月のボーナスは回覧文書で定められているとおりの計算方法で算出された金額が支給されると考えており,その金額は30万円ほどでした。しかしながら,支給日に通帳を確認すると10万円しか支給されていなかったことから,AさんがB社の担当者に問い合わせると,「今回のボーナスは4月から11月までを対象期間とすることが急遽取締役会で決定された。」と言われてしまいました。
 しかしながら,突然ボーナスの支給対象期間を変更されて不利益を被ってしまったAさんは納得がいきません。
 Aさんは,回覧文書で定められたとおりの金額を受け取ることができないのでしょうか。

この事例を聞いた花子さんの見解

 就業規則で定められているボーナスの支給対象期間を会社が勝手に変更することは出来ないと思いますので,Aさんは回覧文書で定められているとおりの金額を受け取ることができるのはないでしょうか。

この事例を聞いた太郎さんの見解

 たしかにボーナスの支給対象期間が就業規則で定められていますが,ボーナスというのは毎月の賃金とは違って,あくまで会社に支給するのか,支給したとしていくら支給するのかを決定できる裁量があると思いますので,会社が支給対象期間を11月までと決定している以上,それに従わなければいけないのではないでしょうか。

弁護士の見解

 今回のケースでは,Aさんは,差額の20万円ほどを受け取ることができると思います。
 まず,就業規則についてですが,就業規則の内容が合理的なものである場合には労働契約の内容になると考えられており,この就業規則が従業員の労働条件となっているケースは多いと思います。
 そして,ボーナスの支給は使用者に当然には義務付けられているものではないんですが,就業規則などでボーナスに関する規定が定められていることが多く,ボーナスを支給してもらうことが従業員の労働条件となっていることが多いと思います。しかしながら,就業規則で定められているからといって直ちに従業員がボーナスを請求できるわけではなく,会社が算定基準や方法を決定するなどして,支給条件や額が明確になって初めて従業員にはボーナスを請求する権利が発生します。
 今回のケースでいえば,成績査定なども別に加味されるのであれば別ですが,就業規則でボーナスの支給対象期間が定められていて,回覧文書で支給対象期間の出勤日数を基にする金額の算出方法が明らかにされていることから,ボーナスの支給条件や額が明確になっているといえると思います。
 回覧文書が従業員に回ってから取締役会で支給対象期間を変更することが決定されているようですが,支給対象期間は就業規則で定められており,従業員の労働条件となっていることから,これを就業規則の変更もなく,取締役会の一存で一方的に変更することは出来ないと考えられます。

太郎さんの質問

 今回は取締役会の決定で支給対象期間が変更されていますが,これが就業規則の変更の場合はどうなんでしょうか。

弁護士の説明

 今回の就業規則の変更は,Aさんからすれば不利益に変更されたことになります。この就業規則の不利益変更が許されるか否かについては,就業規則の不利益変更は原則として許されないですが,合理的であれば例外的に変更できるとされています(最判昭和43年12月25日)。
 合理的かどうかは,変更によって従業員が被る不利益の程度,会社側の変更の必要性の内容や程度,労働組合との交渉の経緯など様々な事情を考慮して判断されます。
 従業員の多数で組織する労働組合の合意を得て,就業規則を変更した場合にも一部の従業員の不利益が大きい場合には,その就業規則の変更は無効だと判断されたこともあり,従業員全員にとって不利益でなければ就業規則を不利益に変更したことにはならないということではありません。その場合の変更の合理性も,会社側がなぜ支給対象期間を変更する必要があったのかや労働組合との交渉経緯などにより判断されることになると思います。

※本記載は令和元年6月8日現在の法律・判例を前提としていますので,その後の法律・判例の変更につきましてはご自身でお調べください。

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