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労働問題

従業員の転職・独立等を制限する合意(競業避止義務)

従業員の転職,独立等を制限する誓約書などでの約束を「競業避止義務」といいます。これが法律上有効といえるかどうかは,過去の裁判例上,①使用者の正当な利益,②労働者の在職中の地位や職務内容,③競業禁止の期間や地域の範囲,④労働者のキャリア形成の経緯,⑤労働者の背信性,⑥代償措置の有無などを総合的に考慮して有効性を判断するとされています。

従業員の転職・独立等を制限する合意(競業避止義務)

事例

 Aさんは,東京の料理店で修行をしてきた料理長のBさんを雇い,飲食店を経営していました。お店は,料理長のBさんの腕もあってか評判がよく,順調に経営ができていました。
 しかし,Bさんが,突然,家庭の事情があるということでお店を辞めたいと言ってきたのです。Aさんとしては,引き留めることもできないと考える一方で,腕の良いBさんが他のお店に就職したり独立してお店を持ったりすると自分のお店の経営にも響くと考え,Bさんに「他のお店に就職したり,独立してお店を持ったりしないことを約束する。」という誓約書を書いてもらいました。そうしてBさんの退職を認め,Bさんほどの腕はないと感じはするものの,他の料理長をお店に迎えてまずまずの経営ができていました。
 ところが,Bさんが退職してから3ヶ月後,何とBさんが隣町で自分のお店をオープンしたのです。
 Bさんの約束違反が許せないAさん。Bさんのお店の営業差止めやBさんへの損害賠償請求をしたいと考えていますが,認められるでしょうか。

この事例を聞いた花子さんの見解

 Bさんは,「他のお店に就職したり,独立してお店を持ったりしないことを約束する。」という誓約書を書いていますよね。それにもかかわらず,約束に違反して自分のお店をオープンしているのですから,Bさんの行為は悪質と言われてもしょうがないと思います。Aさんは,Bさんのお店の営業差止めも損害賠償請求も,どちらもできるんじゃないかと思います。

この事例を聞いた太郎さんの見解

 確かに,Bさんは誓約書を書いていたにもかかわらず,約束違反をしてはいるんですが,Bさんのお店の営業差止めまで認めてしまうと,Bさんのお店のスタッフを解雇しなければならなくなったり,影響が大きすぎると思います。ですので,Bさんのお店の営業差止めまではできず,損害賠償請求だけができるんじゃないかと思います。

弁護士の見解

 今回のケースでは,Aさんは,営業差止めも損害賠償請求もどちらもできないと思います。
 今回のケースで,Bさんが誓約書に書いた内容は,法律用語で「競業避止義務(きょうぎょうひしぎむ)」といいます。実は,この競業避止義務は職業選択の自由や自由競争の制限につながるものであるため,どんな場合でも有効という訳ではありません。これが法律上有効といえるかどうかは,過去の裁判例上,①使用者の正当な利益,②労働者の在職中の地位や職務内容,③競業禁止の期間や地域の範囲,④労働者のキャリア形成の経緯,⑤労働者の背信性,⑥代償措置の有無などを総合的に考慮して有効性を判断するとされています。
 今回のケースでは,競業禁止の期間や地域の限定が全くないこと(③の要素),それまで料理人として修行してきたBさんに料理人としての仕事をすることを禁止する誓約書になっていること(④の要素),競業禁止を約束してもらう際に代償金などの支払いもされていないこと(⑥の要素),などから考えて,Bさんに約束させた競業避止義務は無効になると思います。したがって,Aさんは,この競業避止義務に基づく営業差止めも損害賠償請求もどちらもできないと思います。

太郎さんの質問

 今回のケースでは,競業避止義務は無効だということですが,これが有効となるためには,具体的にはどのような要素が必要になってくるんでしょうか。

弁護士の説明

 先程の①から⑥などの各要素の総合考慮なので,一概には言えませんが,競業避止義務が有効となるための要素としては,例えば,BさんがAさんのお店の秘伝のレシピを習得していてそれをBさんに利用されると困るといった事情がある場合とか(①の要素),退職後1年間に限りAさんのお店と同一地域での営業を禁止するというように誓約書で期間や地域を限定しているとか(③の要素),Bさんがお店をオープンしたのがAさんのお店の目の前であるとか(⑤の要素),BさんがAさんのお店のスタッフを引き抜いているとか(⑤の要素),Bさんに誓約書を書いてもらうかわりに相当額のお金を支払っているとか(⑥の要素),そのような要素がそろっている場合は,競業避止義務が有効となる可能性が高まると思います。

※本記載は令和元年7月6日現在の法律・判例を前提としていますので,その後の法律・判例の変更につきましてはご自身でお調べください。

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