地域への貢献を目指す安心と信頼の法律事務所 西川総合法律事務所
相続

遺留分減殺請求

遺留分(民法1028条以下)とは,遺言や生前贈与などによっても侵害することができない,一定の相続資格を持つ相続人のために必ず残されなければならない遺産の割合のことをいいます。遺留分の額は,相続財産の額,特別受益の額などに基づいた計算を行って求めることになります。

遺留分減殺請求

事例

 AさんにはBさん・Cさんの二人の子供がいたところ,Bさんが新規に事業を立ち上げることになり,Aさんは,その運転資金としてBさんに1000万円を贈与しました。Aさんは妻の死後は,深夜遅くまで仕事をしていたため,以前からあまり体調が良くありませんでした。そして,Bさんが事業を立ち上げた直後からAさんの容体は急激に悪化し,贈与から10ヵ月後にAさんは亡くなってしまいました。
 Aさんの死後,CさんはAさんの財産を調査したところ,Aさんには残された財産が全く無く,それどころか,Aさんには500万円の負債があることが判明しました。Cさんは,自分は相続で債務しか負わないのに,BさんがAさんから1000万円ももらっていることに納得がいかないため,相続の際にBさんから500万円を受け取りたいと考えています。CさんはBさんが受け取ったお金のうち,500万円を相続することが出来るでしょうか。

この事例を聞いた花子さんの見解

 BさんとCさんは本来は同じ立場でAさんを相続することが出来るので,Bさんから500万円を返してもらって相続することが出来ると思います。

この事例を聞いた太郎さんの見解

 何がAさんの相続財産になるかについては,Aさんを相続する時にAさんが持っていた財産が基準になると思うので,CさんはBさんに500万円を返してもらってこれを相続することはできないと思います。

弁護士の見解

 この場合は,CさんはBさんが持っている500万円を相続することはできないと考えられます。しかし,Cさんは,Bさんに対して,贈与された財産のうち375万円の返還請求をすることは出来ます。
 まず,500万円を相続することができないという点は,以下の理由によります。
 相続人になった人が,亡くなった人から,生前に生計の資本としての贈与を受けていた場合には,相続の際に贈与を受けたことが考慮され,他の相続人よりも相続できる財産の額が少ないものとなります(民法903条)。このように,相続に影響を与える贈与については,法律上「特別受益」と呼ばれています。今回のような事業資金としての贈与もこの特別受益にあたると考えられています。
 そして,この特別受益を受けた人については,相続の際にその人が得られる相続財産が減るといったことは起こるのですが,先に贈与によって得た財産を相続の際に返還するといったことまではする必要はありません。
 今回のケースでも,Bさんは贈与によって得た1000万円を相続の際に返還する必要はないことになり,Cさんはその2分の1である500万円を相続することはできません。
 また,Aさんの債務については,それぞれの相続人が法律で決まっている相続分に従って負担をすることになり,BさんとCさんの相続分はそれぞれ2分の1ずつであることから,CさんはAさんを相続することによって250万円の債務を負うことになります。

太郎さんの質問

 では,375万円の返還請求ができるというのは,どういう理由からなのでしょうか。

弁護士の見解

 375万円の返還請求の根拠は,Cさんの遺留分です。
 遺留分(民法1028条以下)とは,一定の相続資格を持つ相続人のために必ず残されなければならない遺産の割合のことをいいます。遺留分の額は,相続財産の額,特別受益の額などに基づいた計算を行って求めることになります。
 今回のCさんについては,1000万円の生前贈与から債務の500万円を引いた,残りの500万円の4分の1である125万円が遺留分として認められることになります。さらに,Cさんは相続によって250万円の負債を負っています。そこで,Cさんは,これらを合計した375万円についてBさんに返還を求めることが出来ます。

太郎さんの質問

 相続の時点でBさんにめぼしい財産が無く,請求をしても払ってもらえなさそうな場合には,Cさんはどうしたらいいのでしょうか。

弁護士の説明

 その場合には,Cさんは,相続が開始したことを知ってから3カ月以内に,裁判所に相続放棄の手続(民法938条以下)をして,250万円の相続債務を免れるのが良いと思います。
 ただし,相続放棄をした場合には,Cさんは相続の当初からAさんの相続人ではなかったことになってしまうため,Bさんに対して,遺留分の侵害を主張することはできなくなってしまう点に注意は必要です。

※本記載は平成30年12月8日現在の法律・判例を前提としていますので,その後の法律・判例の変更につきましてはご自身でお調べください。

法律相談事例一覧に戻る