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飲食店・居酒屋のキャンセル料

飲食店・居酒屋の予約のキャンセル料について,キャンセル料の金額の合意が無い場合には,店側へのキャンセル料の金額は,ケースに応じて店側に生じる平均的な損害額となるでしょう(キャンセル料の金額の合意がある場合に関する消費者契約法9条1号参照)。その際の金額算定のポイントは,①キャンセルの連絡を入れた時間が早いかどうか,②料理の材料が他の料理に流用することが可能であるか,③店側が,予約があることを理由に,他の客を断っていたか,などです。

飲食店・居酒屋のキャンセル料

事例

 Aさんたちは,職場で,20人位で集まって,2週間後の金曜日に暑気払いの飲み会をすることになって,居酒屋に予約を入れることとなりました。そして,居酒屋に,電話で,予約人数20人として,日程を告げて,午後6時30分から一人4000円で飲み放題付きのコースを予約しました。
 ところが,飲み会の当日になってから,Aさんたちの職場で使っているパソコンのトラブルが発生して,それに対する対応に職場全体が追われることとなり,トラブル対応の為に夜中までかかりそうな状態となってしまいました。午後になった段階で,夕方から職場仲間での飲み会をするような状態でなかったことから,今回は,暑気払いの飲み会は中止にして,また,今のトラブルが落ち付いてから日程調整をしようということになりました。
 そこで,Aさんが,午後2時位に居酒屋にキャンセルの連絡をすると,キャンセル料として,8万円(=4000円×20人)全額の支払いを求められてしまいました。店側としては,「20人の予約ということで,席を確保して,他のお客さんを断ってしまっていたという事情もあるし,材料の準備をして,料理の準備もしていたので,それが無駄になってしまった以上は,8万円全額の支払いをして欲しい」とのことでした。
 当日のキャンセルとなってしまったのだから,店側には迷惑となってしまったと思うので,多少のキャンセル料は支払った方が良いのだろうかとも思うAさんですが,全額払わなければいけないのでしょうか。

この事例を聞いた花子さんの見解

 Aさんは,店側に8万円全額支払わなければいけないと思います。他の予約客を断っていたということになると,もっと早くにキャンセルが分かっていたなら,その既に断った予約客からの売上を出すことが出来ていたということなので,店側にはっきりとした損害が出てしまっていると思います。ここで,店側の損失の補てんがないと,不公平かと思います。

この事例を聞いた太郎さんの見解

 Aさんの今回のキャンセルの理由は,その日になるまでは予想もしていなかったような事情だと思います。そして,予約時間よりかなり前にキャンセルの連絡も入れていることから,対応としての誠実さがあるのではないかと思いますので,全額の支払いをすることはAさん側に酷であるように思います。

弁護士の見解

 今回のケースであれば,Aさんは,キャンセル料として,8万円全額の支払いまではしなくても良いと思います。
 法律的に見れば,予約を入れた時点で,口頭でも8万円の飲食店利用の契約が成立しているといえます。この状態となると,キャンセルが出来ないわけではありませんが,契約のキャンセルをすることによって,店側に損害が出る場合には,その分を客側が補填しなければいけない可能性があります。
 ここで,それがどの程度の金額となるかについては,キャンセル料についての合意がある場合には,店側に生じる平均的な損害を超えるような不公平な内容になっていない限りは,その合意の通りのキャンセル料となると思います(消費者契約法9条1号)。飲食店でも,店によっては,予約キャンセルの定めをきっちりと予約の際に告げる場合がありますので,このような場合は,金額でのトラブルが生じにくいでしょう。
 今回のケースでは,そのようなキャンセル料についての合意が無い場合ですので,店側への支払を幾らと考えるかについては,ケースに応じて店側に生じる平均的な損害額となると思います(キャンセル料の合意がある場合に関する消費者契約法9条1号参照)。
 最終的には,これはケースバイケースなので,具体的な金額を出すことは難しいと言わざるを得ません。
 しかし,金額算定のポイントがいくつかあります。それは,①キャンセルの連絡を入れた時間が早ければ,当日であったとしても,それから客を入れることが出来るようになるので,店側の損害が減るということです。また,②料理の準備としても,材料が他の料理に流用することも可能である場合がありますから,そのように出来る状態であれば,店側の損害が減ることとなります。逆に,③店側が,キャンセルとなった予約が存在していることを理由に,他の客を断っていたような場合には,店側の損害が生じているということになるでしょう。このようなポイントについても,その店が予約客中心で営業をしているか否か等の業務形態の違いによって,金額は変わってくるでしょう。
 今回のケースでは,金曜日の居酒屋ということなので,取り立てて予約客中心で営業をしているという店でもなければ,午後2時以降に新たな予約が入ることもあるでしょうし,普通にお客さんが入ることもあると思います(③)。そして,予約の4時間半前の状態でのキャンセルですから,料理の準備についても,材料を他の料理に流用できる状態であった可能性があるでしょう(①②)。
 したがって,この居酒屋に支払わなければいけない金額は,少なくとも全額にはならず,かなり低額なものとなると思います。
 そこで,先ほど言ったようなポイントを踏まえて,店側と交渉をするのが良いと思います。
 店側としても,無断キャンセルやキャンセルの連続をしている等のよほど不誠実な対応をする客でない限り,将来的にもお客さんになってくれるかもしれない人達として対応するでしょうから,あまり強行に,全額の支払いを求め続けることはないと思います。むしろ,店側としては,ここでこの客側の機嫌を損ねてしまうと,時間と労力をかけて,裁判までするかとか,その結果として,全く何のお金も回収できないかもしれないとか,さらに,未来のお客さんも失うかもしれないとかいった,リスクを考えなければならない状態です。したがって,店側は,全額ではなくとも,多少のキャンセル料を支払うような意向を見せている人達に対しては,柔軟な対応を見せる可能性はあると思います。

※本記載は平成30年12月29日現在の法律・判例を前提としていますので,その後の法律・判例の変更につきましてはご自身でお調べください。

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