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法定管轄裁判所から専属的合意管轄裁判所への移送

原告が自らの住所地を管轄する法定管轄裁判所に訴訟提起したのに対して,被告が契約書で定めた専属的合意管轄裁判所に移送を求めた場合は,民事訴訟法上は明文の規定はありませんが,この場合でも,「訴訟の著しい遅滞を避け,又は当事者間の衡平を図るため必要があると認めるとき」は民事訴訟法17条,20条1項の趣旨を類推して,移送をせず,受訴裁判所で審理することが許されると解釈されています(名古屋高決平成28年8月2日)。

法定管轄裁判所から専属的合意管轄裁判所への移送

事例

 鳥取県に居住する会社員のBさんは多重債務を負い,インターネット広告を見て知った東京に主たる事務を構える弁護士法人Aに電話をして,債務整理の相談をしました。弁護士法人Aは,「安心の全国対応」と銘打ち,全国に合計7か所支店を置き,全国の債務者をインターネット広告で集客する弁護士法人でした。そして,電話相談の結果,Bさんは自己破産をすることになり,債権者名を電話で伝えて,郵送で委任契約書を取り交わしすることになりました。料金については,着手金44万円を毎月4万円ずつの分割払いで支払う内容で,その他は実費などを負担する内容でした。
 しかし,Bさんは,病気で働けなくなってしまい,毎月4万円の着手金も全額を払うことができず,毎月1万円ずつ払うようになってしまいました。そして,何とか7万円だけ払ったものの,毎月の1万円すらも滞るようになったところで,弁護士法人Aは委任契約を解除してきて,Bさんは,債権者からの請求を再び受けることになってしまいました。さらに,それだけでは終わらず,債務整理を依頼したはずの東京の弁護士法人Aは,Bさんの自己破産手続について実質的に何もしていないにもかかわらず,着手金44万円-既払い金7万円=残金37万円の全額と郵送料実費3000円を合計した,37万3000円を請求してくる始末でした。
 そこで,Bさんは,地元の鳥取県の弁護士に再度債務整理を相談し,自己破産の依頼をすることになりました。そして,実質的に何も業務をしていないのにお金は全額請求してくる東京の弁護士法人Aの対応を疑問に思い,弁護士法人Aを被告として既払い金7万円-郵送料実費3000円=6万7000円の返還請求と弁護士法人Aが請求してきた37万3000円の債務不存在確認を求めて,Bさんの住所地を管轄する裁判所である地元の鳥取簡易裁判所に訴訟提起をしました。
 ところが,弁護士法人AはBさんのこの訴訟提起に対して,委任契約書に東京地方裁判所を専属的合意管轄裁判所とする旨の条項があるという理由で,東京地方裁判所に対して移送をするよう要求してきました。
 Bさんには裁判のために東京の裁判所まで出向くお金の余裕などありませんが,Bさんの裁判は,東京地方裁判所に移送されてしまうのでしょうか。

この事例を聞いた花子さんの見解

 Bさん自身が納得して契約書を取り交わししているはずで,その契約書に東京地方裁判所でしか訴訟提起できないという定めがあるのであれば,その契約書の定めのとおりになってしまうのではないでしょうか。

この事例を聞いた太郎さんの見解

 Bさんは自己破産しようとしている人ですし,裁判のために鳥取県から東京地方裁判所まで行けというのはあまりに酷な気がするので,鳥取簡易裁判所で裁判をさせてあげたいなと思います。

弁護士の見解

 今回のケースでは,Bさんの裁判は東京地方裁判所に移送されない可能性があります。
 民事訴訟法11条は,当事者の合意により第一審の管轄裁判所を定めることを認めており,今回のような専属的合意管轄裁判所の定めもできることとされています。
 しかし,仮に弁護士法人AがBさんに対する裁判を専属的合意管轄裁判所である東京地方裁判所に提起した場合であっても,民事訴訟法は,「訴訟の著しい遅滞を避け,又は当事者間の衡平を図るため必要があると認めるとき」は法定管轄を有する鳥取簡易裁判所に移送することができる旨の明文の規定を置いています(民事訴訟法17条,20条1項)。

花子さんの質問

 でも,今回のケースは,その逆で,Bさんが鳥取簡易裁判所に訴訟提起したのに対して,弁護士法人Aが専属的合意管轄裁判所である東京地方裁判所に移送を求めた場合ですよね。

弁護士の説明

 はい。
 今回のケースのように,Bさんが法定管轄を有する鳥取簡易裁判所に訴訟提起したのに対して,弁護士法人Aが専属的合意管轄裁判所である東京地方裁判所に移送を求めた場合は,民事訴訟法上は明文の規定はありません。しかし,この場合でも,「訴訟の著しい遅滞を避け,又は当事者間の衡平を図るため必要があると認めるとき」は民事訴訟法17条,20条1項の趣旨を類推して,東京地方裁判所に移送しないで,鳥取簡易裁判所で審理することが許されると解釈されているんです(名古屋高決平成28年8月2日)。
 今回のケースと類似のケースで,当事者間の衡平を図るため必要と認められると認定し,民事訴訟法17条,20条1項の趣旨を類推して,東京地方裁判所に移送しないで,鳥取簡易裁判所で審理することが許されると判断した裁判例もあるんです(鳥取簡決令和3年4月19日)。
 なお,弁護士法人Aは,「安心の全国対応」と銘打ち,全国に合計7か所支店を置き,全国の債務者をインターネット広告で集客する事業者であり,このような「全国対応」の事業者が,自身との契約トラブルに限っては「全国対応」をせず,「東京地方裁判所」のみを専属的合意管轄裁判所とすることは,消費者であるBさんの義務を著しく加重するものとして,消費者契約法10条の規定により無効となると思われます。したがって,今回のケースでは,不当利得返還請求権の義務履行地であるBさんの住所地を管轄する鳥取簡易裁判所に管轄が存するものとして,東京地方裁判所への移送が認められないという結論が導かれるべき事案でもあります。今回のケースと類似のケースに関する鳥取簡決令和3年4月19日は,東京地方裁判所を専属的合意管轄裁判所とすることが消費者契約法10条の規定により無効となるという点に関しては,判断を回避して,それとは別の理由である民事訴訟法17条,20条1項趣旨類推を理由として東京地方裁判所への移送をしないという結論を導き出していますが,本来的には,消費者契約法10条の規定により無効となるという理論構成によることが可能なケースだという点は注意が必要です。

※本記載は令和3年4月22日現在の法律・判例を前提としていますので,その後の法律・判例の変更につきましてはご自身でお調べください。

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