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一般民事・商事・家事事件

使用貸借の終了(借主の死亡)

物をタダで借りる「使用貸借」では,借主と貸主の特別な人間関係があったからこそ,物をタダで貸してあげているわけですので,当事者の一方である借主が亡くなった場合には,使用貸借の契約は終了してしまいます(民法599条・改正民法では597条3項)。建物をタダで貸してもらうお礼として,借主が,建物の固定資産税を負担していたという場合も同様です。

使用貸借の終了(借主の死亡)

事例

 主婦のAさんは,間もなく仕事を定年退職する夫から,「定年後は俺の生まれ故郷の鳥取で過ごそう。住む家は,ひとまず10年間は,地元の友人がタダで貸してくれることになっている。」と言われました。Aさんは生まれてからずっと東京で暮らしていたので,夫の定年後はこれまでと違った生活がしてみたいと思い,夫と一緒に鳥取で生活することにしました。
 鳥取での生活を始めて5年後に,Aさんの夫は不幸にも亡くなってしまいましたが,Aさんは鳥取を気に入っていたため,夫が亡くなった後もそのまま鳥取で生活を続けようと思っていました。しかし,Aさんは,家の貸主である夫の友人から,「家を返して欲しい。」と言われました。約束の10年まであと5年くらい残っているのですが,Aさんは家を出て行かなければならないのでしょうか。

この事例を聞いた花子さんの見解

 10年間家を貸してくれるという約束があるので,Aさんは,その期限が来るまでは住み続けることができるのではないかと思います。

この事例を聞いた太郎さんの見解

 家を貸してもらっていたのはAさん自身ではなく,Aさんの夫なので,夫が亡くなった以上,Aさんは家を出て行かなければいけないと思います。

弁護士の見解

 このケースでは,Aさんは,家を出て行かなければいけないと思われます。
 貸主にお金を払って物を借りることを「賃貸借」,タダで借りることを「使用貸借」というのですが,このケースは「使用貸借」にあたるといえます。この「使用貸借」では,借主と貸主の特別な人間関係があったからこそ,物をタダで貸してあげているわけですので,当事者の一方である借主が亡くなった場合には,使用貸借の契約は終了してしまいます(民法599条・改正民法では597条3項)。
 但し,本件のようなケースでは無理だとしても,建物所有目的での土地の使用貸借の事案とか,親族間での不動産の使用貸借の事案など,事案によっては,使用貸借で借主が亡くなった場合でも,借主・貸主・同居人の関係などを考慮して,同居人が引き続き借りた不動産を使用できるという裁判例もありますので,具体的な事案については,弁護士に相談したほうが良いと思います。

花子さんの質問

 先程の事例で,建物をタダで貸してもらうお礼として,Aさんの夫が,建物の固定資産税を負担していたという場合はどうでしょうか。

弁護士の見解

 固定資産税の額は,普通に賃貸借契約を結んで家を借りたときの賃料と比べるとかなり安いのが通常です。その意味で,固定資産税程度を負担していただけでは,「賃貸借」とはいえないと判断される場合が多いと思われます。また,「使用貸借」においては「通常の必要費」は借主の負担とされていて(民法595条1項・改正民法でも同じ),固定資産税はこの「通常の必要費」にあたると考えられていますので,Aさんの夫が固定資産税を負担していたとしても「使用貸借」であることと矛盾しないことになります。ですので,Aさんは,「使用貸借」の終了を理由として,家を出て行かなければならないと思われます。

※本記載は平成30年7月14日現在の法律・判例を前提としていますので,その後の法律・判例の変更につきましてはご自身でお調べください。

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