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中古自動車メーター改ざん

事実と異なることを告げられて,誤解をした上で,事業者と契約をした消費者は,その契約を取り消すことが出来るとされています(消費者契約法4条1項1号)。ただし,この消費者契約法4条1項1号の「不実告知による取消」が出来るのは,間違った説明がされていたということに気付いてから6か月以内であり,購入契約をしてから5年以内に限られます(消費者契約法7条1項)。

中古自動車メーター改ざん

事例

 Aさんは,夏のボーナスで,中古自動車を購入することにしました。
 チラシに7万キロの走行距離と書いてある中古車があったので,10万キロ以下の走行距離で手の届きそうな値段となっていたことが気になって,Aさんは,その中古車の販売業者に行ってみました。そして,店員に対して,チラシに乗っていた自動車について10万キロ以下の走行距離であれば,購入したいと言って,具体的に走行距離を確認したいと言いました。店員からは,改めて,7万キロの走行距離だと説明を受けて,メーターの確認もしました。また,何度か実際にその中古車に試乗もして,おかしなところもなかったように思ったので,そのチラシで気になっていた中古自動車を購入することにしました。
 そして,Aさんは,中古車の購入の契約書を取り交わして,色々書類も貰ったので,それを最初のチラシと一緒にまとめて保管しておきました。そして,一括で代金を支払って,間もなく納車となりました。
 しかし,Aさんがその車に乗り始めると,シートは新品みたいにきれいなのに,ペダルが7万キロの走行距離とは思えない位にゴムが擦り切れていたりする,ちぐはぐな感じが気になってきました。そこで,専門業者に頼んでメーターが改ざんされていないか調べてみると,メーター改ざんがされているとのことで,実際には16万キロの走行距離だということが分かりました。
 Aさんは,10万キロ以上の走行距離であれば購入はしなかったのにと思って,購入元の中古販売業者に返品と返金の話をしようとすると,断られてしまいました。中古販売業者の言い分としては,「確かに,メーターの改ざんはされていたかもしれないけれど,店側もそのことは知らなかった。店が車を仕入れる前のどこかで,メーターの改ざんがされたのだろう。契約書には,走行距離までは記載されていないはずであり,お客様には何度も試乗をしてもらって,その車の乗りごこちを気にいったから購入してもらったのだと思っている。特に,走行に問題が出ていないのであれば,返金には応じられない。」というものでした。
 確かに,走行そのものに問題を感じるわけではないし,本当に販売業者がメーター改ざんを知らなかったのなら,販売業者を責めるのも筋違いな気もするAさん。しかし,やはり自分としての購入の決め手は,10万キロ以下の走行距離であったので,どうしても納得がいきません。どうしたら良いのでしょうか。

この事例を聞いた花子さんの見解

 契約書に,走行距離の記載がなく,何度か試乗もしてその車の状態も確かめていたのであれば,走行距離7万キロと言われていても,実際には走行距離16万キロの車を購入したものとして,返品・返金はあきらめるしかないのではないでしょうか。

この事例を聞いた太郎さんの見解

 購入者の気持ちからすると,メーター改ざんについて,何も言えないのはおかしい気がします。中古車販売業者にも協力してもらって,実際にメーターを改ざんした人を見つけて,責任追及をしたらどうでしょうか。

弁護士の見解

 今回のケースであれば,Aさんは,中古車販売業者から購入代金の返金をしてもらって,返品をすることが出来ると考えます。
 これは,消費者契約法という法律の4条1項1号で,事実と異なることを告げられて,誤解をした上で,事業者と契約をした消費者は,その契約を取り消すことが出来ると定められていることによります。法律用語的に言うと,「不実告知による取消」となります。
 この法律からすると,販売業者側が,事実と違うということを知らなかったとしても,実際に事実と違う説明をしているのならば,販売業者に対して,その販売契約を無かったことにするように求めることが出来ます。そして,契約が無かったことになる結果として,購入代金の返金と,購入物品である中古車の返品をすることとなります。
 ここで最も問題になるのが,事実と違う説明があったか否かを証明することが出来るかということですが,今回のケースでは,契約書に記載がなかったとしても,チラシで7万キロという説明をしていたということが分かるので,契約書に記載が無いことを大きく気にせずとも良いかと思います。
 また,購入者が,走行距離をあまり重視していなかった場合は,走行距離について間違った説明があったとしても,契約をなかったことにすることは出来ないかもしれないのですが,今回のケースでは,購入者であるAさんは,走行距離が10万キロ以下であることを重視するような発言をしているので,この点についても,返金・返品の大きな妨げにはならないかと思います。
 したがって,この消費者契約法4条1項1号で,契約を取り消すとの意思を,内容証明郵便等のはっきりとした形に残る方法で,中古車販売業者側に示した上で,購入代金の返品を求めるとともに,購入した中古車を返品するとの意思を示すのが良いでしょう。
 但し,ここで注意をしないといけないのは,この消費者契約法4条1項1号での取消が出来るのは,間違った説明がされていたということに気付いてから6か月以内であり,購入契約をしてから5年以内であるということです(消費者契約法7条1項)。走行に問題が出てから,取消をすれば良いと考えて,メーター改ざんに気付いた後も,6か月以上はっきりとした行動を取らずに放っておくと,取消ができなくなってしまいます。
 購入者であるAさんが,返金をしてもらって,中古車の返品をしたいのであれば,気付いたら,すぐに,はっきりと形に残る方法で,取消の意思を示すことが必要でしょう。

※本記載は平成30年11月17日現在の法律・判例を前提としていますので,その後の法律・判例の変更につきましてはご自身でお調べください。

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