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国・地方公共団体の管理する設備の設置管理者の責任

国や地方公共団体の管理する設備で怪我をした場合,治療費を支払ってもらうには,国や地方公共団体による設備の設置や管理に「瑕疵」(その物が通常有するべき安全性を欠き,他人に危害を及ぼす危険性のある状態)がなければなりませんが(国家賠償法2条1項),本来の用法に従えば安全であるものについて,設置管理者の通常予想できない方法で使用したケースでは,瑕疵はないと考えられます。

国・地方公共団体の管理する設備の設置管理者の責任

事例

 Aさんは休日に開放された近所の公立小学校に5歳の子どもと遊びにいきました。
 小学校に行くと子どもと同じ幼稚園に通っている子どもも何人か来ていたので,Aさんは子どもたちだけで遊ばせて,ママ友達と話をしていました。
 しばらくママ友達と話していると,突然大きな音がしたので,音がした方を見ると,テニスコートの審判台が倒れて,誰かが下敷きになっていました。驚いて審判台の方に行くと審判台の下敷きになっていたのはAさんの子どもでした。慌てて審判台をどかし,病院に子どもを連れて行ったところ,Aさんの子どもは骨折などのけがを負っており,入院することになってしまいました。あとからAさんは自分の子どもや一緒に遊んでいた子どもたちに話を聞くと,審判台の後ろから飛び降りて遊んでいたところ,急に審判台が倒れたということでした。ただ,小学校に確認すると審判台を普通に使っている分には特に問題があったわけではなさそうです。
 しかしながら,Aさんは目を離してしまっていた自分にも責任があると思いながらも,小学校も審判台が倒れないように何らかの措置をとってくれていれば子どもはけがをしなかったのではないかと考えています。
 Aさんは小学校に子どもの治療費を支払ってもらうことはできるのでしょうか。

この事例を聞いた花子さんの見解

 審判台は普通に使用する分には問題なかったわけですし,子どもがけがしないように一番に注意しなければならなかったAさんが目を離していたんですから,小学校に治療費を支払ってもらうのは無理なのではないでしょうか。

この事例を聞いた太郎さんの見解

 いくら普通に使用する分には問題なかったとはいえ,休日に校庭を開放している以上,小学校は審判台が倒れないように足の部分に重りを乗せておくなどの措置をとっておくべきだと思います。それで子どもがけがをしてしまったのであれば小学校にも責任があるのではないでしょうか。

弁護士の見解

 今回のケースでは,Aさんは小学校に治療費を支払ってもらうことはできないと考えられます。
 今回のケースは,治療費を請求するのが公立小学校なので,国や地方公共団体に対して損害賠償を求める国家賠償を請求することになります。
 その場合,Aさんが小学校に治療費を支払ってもらうためには,小学校に審判台の設置や管理に瑕疵がなければなりません(国家賠償法2条1項)。瑕疵というのは,その物が通常有するべき安全性を欠き,他人に危害を及ぼす危険性のある状態を言います。
 今回のケースでは,審判台は普通に使用する分には問題なかった,つまり本来の用法に従えば安全であったといえます。そして,審判台の後ろから飛び降りることは審判台の使用方法として通常予定されていないため,設置管理者である小学校の通常予想しえない使用方法であるといえます。すなわち,本来の用法に従えば安全であるものについて,設置管理者の通常予想できない方法で使用したケースといえます。このような場合,本来の用法に従えば安全であったことから審判台に瑕疵はないと考えられます。つまり,小学校に子どもがいかなる行動に出ても不測の結果が生じないようにしろというのは不可能を強いることになると考えられていて,通常の使用方法と異なることをしないよう教育することは保護者側の義務であると考えられているんです(最高裁平成5年3月30日判決)。

花子さんの質問

 今回のケースでは通常の使用方法と異なる使用方法によってけがをしたために治療費を求めることができないということですが,他にも設置や管理に瑕疵がないと判断されるケースはあるんでしょうか。

弁護士の回答

 他には例えば設置管理者に損害の回避措置をとる時間的余裕がない場合などの不可抗力のケースが挙げられます。
 過去の判例では,道路工事現場であることを示す赤色灯が事故車の直前に通行した他車によって倒されて消えていたところ,事故車が直前まで工事現場に気付かずにいたため事故に遭ってしまったというケースで,道路の設置管理者が現状に戻して安全を保つことは時間的にできなかったとして瑕疵を否定したケースがあります(最高裁昭和50年6月26日判決)。逆に,道路上に故障した大型貨物自動車が87時間にわたって放置されていたところ,他車がこれに激突したというケースでは,道路を安全に保つ時間的余裕はあると判断されて,瑕疵があると判断されています(最高裁昭和50年7月25日)。

※本記載は令和元年10月26日現在の法律・判例を前提としていますので,その後の法律・判例の変更につきましてはご自身でお調べください。

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