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相続

相続人がいない人の財産(相続財産管理人・特別縁故者)

亡くなった方に相続人がいない場合には,その財産を保管している人が自由にできるわけではなく,その財産を管理する相続財産管理人を家庭裁判所に選任してもらい,相続財産を管理・清算してもらうことになります(民法951条以下)。もっとも,被相続人の療養看護に努めてきた人などは,特別縁故者として財産分与を受けることができる可能性があります(民法958条の3)。

相続人がいない人の財産(相続財産管理人・特別縁故者)

事例

 Aさんには,隣に住む従兄弟のBさんがいました。Bさんの自宅建物はAさんの土地上にあり,Bさんは,10年前に奥さんに先立たれてから1人で暮らしていました。Bさんには,子どもや兄弟もおらず,Bさんの両親もすでに他界していました。そのため,Aさんは,Bさんとよく一緒に食事するなど家族のように親しくしていました。
 しかしながら,Bさんは徐々に体調を崩しがちになり,入退院を繰り返すようになりました。そこで,AさんはBさんが入院すると着替えに必要な服を病院に持って行ったり,入院費をBさんの代わりに支払うなどし,Bさんの自宅が痛まないように定期的に掃除しに行くなどしていました。そのため,AさんはBさんの預金通帳や自宅の鍵を預かり,保管していました。そのころ,Bさんは「財産を相続する人もいないし,Aさんにはお世話になってるから私が亡くなったらAさんに財産を全て渡す。Aさんの土地に建っている私の自宅も取り壊してもらって構わない。」と話していましたが,Bさんの体調が悪かったことから遺言を作成することはありませんでした。
 その後,Bさんが入退院を繰り返すようになってから5年ほど経過したころ,Bさんの容体は悪化し,亡くなってしまいました。
 Aさんは,生前Bさんと親しくしていたので,自分が喪主になってBさんの葬儀を執り行いましたが,Bさんの預金は1000万円ほどあり,Bさんが生前言っていたように本当に自分がもらってしまってよいのか困ってしまいました。また,Bさんがいないのであれば,Bさんが言っていたようにBさんの自宅を取り壊して,駐車場にしたいと考えています。
 Aさんは,Bさんの財産を自由にしてしまってよいのでしょうか。

この事例を聞いた花子さんの見解

 Bさんの財産を相続する人もいませんし,Bさんも口頭とはいえ,Aさんに財産を渡して,自宅を取り壊しても構わないと言っているのですから,AさんはBさんの財産を自由にしてしまってもよいのではないでしょうか。

この事例を聞いた太郎さんの見解

 たしかに,Bさんの財産を相続する人はいませんが,遺言がないのであればAさんはBさんの財産を自由にすることはできないのではないでしょうか。

弁護士の見解

 このケースでは,直ちにAさんはBさんの財産を自由にすることはできません。
 まず,AさんはBさんの従兄弟ですので,Bさんの財産の相続権はありませんから,遺言がなければ,Bさんの財産を相続することはできません。口頭では遺言としては認められません。しかしながら,Aさんは相続財産から支出してもらってBさんの自宅を撤去してもらうことは可能だと思いますし,Bさんと特別の縁故のあった者として財産の分与を受けることができる可能性もあります。
 亡くなった方に相続人がいない場合には,その財産を保管している人が自由にできるわけではなく,その財産を管理する相続財産管理人を家庭裁判所に選任してもらい,相続財産を管理・清算してもらうことになります(民法951条以下)。相続財産管理人を選任してもらうためには,家庭裁判所に申立をしなければなりませんが,その申立をできる人は,相続財産に利害関係を持つ人や検察官になります(民法952条)。Aさんの土地上にBさんの自宅が建っているためにAさんはその土地を自由にできないわけですから,Aさんは相続財産について利害関係を持っているといえます。
 選任された相続財産管理人が選任されると相続財産の管理・清算の一環として,AさんはBさんの自宅を撤去してもらうことができます。
 また,Aさんは,相続財産管理人が相続財産を管理・清算していく手続きの中で,特別縁故者として財産分与を受けることができる可能性があります(民法958条の3)。特別縁故者とは,被相続人の療養看護に努めてきた人などのことをいいます。Aさんは,Bさんが入退院を繰り返すようになってからBさんの生活のサポートを長年に渡ってしていますので,特別縁故者と認められる可能性は高いと思われます。

花子さんの質問

 いろいろと手続きがありそうですが,AさんがBさんの自宅を撤去してもらい,財産の分与を受けるまでそのくらいの期間がかかるものなんですか。

弁護士の説明

 裁判所が相続財産管理人が選任されたことを一般に知らせたり,相続財産管理人が相続人がいないのか一般に相続が開始したことを知らせます。そのあとに,Bさんの自宅を撤去したり,特別縁故者として財産の分与を受けられるか判断しますので,最低でも10カ月以上はかかってしまうことになります。
 時間や手間がかかってしまうことになりますので,自分の財産を誰かに引き継いでもらいたいと考えるのであれば,遺言は残しておいた方がスムーズであるといえます。

※本記載は平成30年8月4日現在の法律・判例を前提としていますので,その後の法律・判例の変更につきましてはご自身でお調べください。

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