民法は,遺産分割で不公平が生じた場合に備えて,「各共同相続人は,他の共同相続人に対して,売主と同じく,その相続分に応じて担保の責任を負う。」と規定しています(民法911条)。また,民法は,公平の観点から,共同相続人の中に資力がない者がいるときは,この者の負担すべき部分は,ほかの共同相続人全員が相続分に応じて負担すると規定しています(民法913条)。
事例
Aさんは,B,C,Dさんとの4人兄弟です。このたび,Aさんたちの父親が亡くなったのですが,父親は遺言を残さなかったため,Aさんたちは,父親の遺産について遺産分割協議をすることになりました。なお,Aさんたちの母親は既に亡くなっており,相続人はA,B,C,Dさんの4人だけです。
父親の遺産は,時価1200万円の絵画と,3600万円の現金でした。遺産分割協議では,Aさんは1200万円の絵画を相続して,B,C,Dさんはそれぞれ現金を1200万円ずつ相続するということで,話がまとまりました。
しかし,その後,Aさんが相続した絵画は,贋物であり,全く価値がないことが判明しました。Aさんは他の相続人に対して何か請求できるでしょうか。
この事例を聞いた花子さんの見解
遺産分割協議の時点では公平だったとしても,結果としてAさんは何も相続できなかったのですから,不公平だと思います。Aさんが他の相続人からそれぞれ300万円ずつもらえば,4人が900万円ずつ相続するという公平な結果になるので,Aさんはそのような請求ができると思います。
この事例を聞いた太郎さんの見解
Aさんは,自分で納得して絵画を相続することにしたはずですので,その絵画に価値がなかったとしても,そのリスクは自分で負うべきではないかと思います。ですので,Aさんは何も請求することができないと思います。
弁護士の見解
このケースでは,Aさんは,B,C,Dさんに対して,それぞれ300万円を,損害賠償として請求することができると思われます。
民法は,このケースのように,遺産分割で不公平が生じた場合に備えて,「各共同相続人は,他の共同相続人に対して,売主と同じく,その相続分に応じて担保の責任を負う。」と規定しています(民法911条)。「担保の責任」という言葉はわかりにくいかも知れませんが,契約当事者の一方が損失を被る場合に,当事者間の公平を図る目的で,他方の当事者が負担する損害賠償等の責任のことです。
この条文の考え方に基づけば,共同相続人であるA,B,C,Dさんの相続分はそれぞれ4分の1でしたので,価値がなかった絵画の1200万円について,それぞれがその4分の1の300万円を負担することになります。その結果として,Aさんは,B,C,Dさんに対して,それぞれ300万円を請求することができることになります。
太郎さんの質問
では,このケースで,Dさんが遺産分割後,破産しており,資力がない場合はどうなるでしょうか。
弁護士の回答
その場合,AさんがDさんに対して300万円を請求しても,Dさんから300万円を回収できる見込みはないと思われます。しかし,Dさんの無資力について,Aさんが1人で全て負担しないといけないという結果は,公平であるとはいえません。
そこで,民法では,公平の観点から,共同相続人の中に資力がない者がいるときは,この者の負担すべき部分は,ほかの共同相続人全員が相続分に応じて負担すると規定しています(民法913条)。
今回のケースでは,Dさんが負担すべき300万円について,A,B,Cさんの3人が相続分に応じてそれぞれ100万円ずつ負担することになります。その結果,Aさんは,B,Cさんに対して,それぞれ100万円ずつ追加して,前の300万円と合わせた400万円ずつを請求することができます。
※本記載は平成30年9月15日現在の法律・判例を前提としていますので,その後の法律・判例の変更につきましてはご自身でお調べください。