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相続

相続放棄の熟慮期間(相続開始を知ってから3ヵ月を超えた場合)

相続放棄は,相続が開始したことを知った時から3ヵ月以内にしなければなりません(民法915条1項)。しかし,相続財産が全く存在しないと信じたことに相当な理由がある場合には,相続財産の全部または一部の存在を認識したときか通常認識できたときから3ヵ月以内であれば相続放棄をすることができます(最判昭和59年4月27日)。

相続放棄の熟慮期間(相続開始を知ってから3ヵ月を超えた場合)

事例

 ある日,Aさんの自宅に病院から長年音信不通だった父親が亡くなったという連絡がありました。Aさんの両親はAさんが小学生のころに離婚しており,その後Aさんは父親と連絡をとったことがありませんでした。Aさんは病院に行き,父親の遺品を預かりましたが,父親に特に財産といえるものはありませんでした。
 その後,半年ほどしてAさんの自宅に父親にお金を貸していたという男性から連絡があり,父親の財産を相続しているAさんに貸している200万円を返済して欲しいと言われました。話を聞くとどうやらその男性は嘘をついているわけではなく,本当に父親は200万円を借りていたようでした。
 Aさんは,父親の借金を返済しなければいけないのでしょうか。

この事例を聞いた花子さんの見解

 Aさんは,父親の借金を相続していることになるので,返済しなければならないのではないでしょうか。

この事例を聞いた太郎さんの見解

 たしかにAさんは父親の借金を相続することになるのかもしれませんが,相続を放棄することができると聞いたことがありますので,Aさんは相続放棄をすれば,父親の借金を返済しなくてもよいのではないでしょうか。

弁護士の見解

 Aさんは,父親の借金を返済しなくてもすむ可能性があります。
 Aさんは,相続放棄(民法938条以下)をすることが考えられます。ただし,相続放棄というのは,相続が開始したことを知った時から3ヵ月以内にしなければなりません(民法915条1項)。つまり,Aさんが病院から父親が亡くなったことを知らされたときから3ヵ月以内ということになります。今回のケースでは,Aさんが病院から父親が亡くなったことを知らされてからすでに半年ほど経っていますので,相続放棄はできないようにも思われます。
 ですが,相続財産が全く存在しないと信じたことに相当な理由がある場合には,相続財産の全部または一部の存在を認識したときか通常認識できたときから3ヵ月以内であれば相続放棄をすることができるんです(最判昭和59年4月27日)。
 今回のケースでは,Aさんと父親は,長年の間,連絡もとっていなかったのですから,Aさんは父親の生活ぶりも分からず,借金の存在を知らなくても仕方ないと言えます。そのため,相続財産が全く存在しないと信じたことに相当な理由があると判断される可能性は高いと思いますので,Aさんが父親にお金を貸していると男性から連絡を受けてマイナスの財産があることを認識してから3ヵ月以内であれば,相続放棄ができる可能性は十分にあります。

太郎さんの質問

 今回のケースでは,Aさんの父親にプラスの財産はなかったようですが,プラスの財産があって,あとから莫大な借金が発覚した場合はどうなのでしょうか。プラスの財産の存在は認識できているので,借金が発覚したときから3ヵ月というわけにはいかないのでしょうか。

弁護士の見解

 場合によりますが,そのような場合でも借金が発覚した時から3ヵ月以内であれば,相続放棄が認められた事例もあります。
 例えば,プラスの財産があってもその財産的価値がほとんどなくて,借金もないと考えた上で相続放棄をしなかったときや他の親族にすべての財産を相続させるという遺言があったなどの理由で自分に相続する財産はないと考えて相続放棄をしなかったときなどは,借金の存在を知ってから3ヵ月以内であれば,相続放棄できるとした裁判例があります。
 ですので,プラスの財産を認識していたからといって直ちに諦めるべきではないと思います。

※本記載は平成30年10月13日現在の法律・判例を前提としていますので,その後の法律・判例の変更につきましてはご自身でお調べください。

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