会社の債務を連帯保証していた被相続人の相続において,金銭債務のように分けられる債務については,相続分に応じた割合で相続人に当然分割で相続されます。また,マイナスの財産を誰がどれだけ負担するのかを相続人間で決めることはできますが,それはあくまで相続人間の対内的な取り決めであって,対債権者との関係では効果はありません。
事例
Aさんの父親は,会社を経営しており,その会社の借入れについて連帯保証をしていました。Aさんの父親は2年ほど前に亡くなりましたが,AさんやAさんの母親,Aさんの2人の兄弟は父親が経営している会社で仕事をしていたわけではなかったので,会社は社内の人間が社長になって引き続き経営されていました。
しかしながら,最近になって会社の業績が落ち,ついには倒産してしまったところ,Aさんのもとに会社に融資していたという金融機関からAさんの父親が連帯保証していた会社の債務について,全額返済して欲しいと請求されました。
Aさんは,Aさんの父親が経営していた会社の債務を全額返済しなければならないのでしょうか。
この事例を聞いた花子さんの見解
Aさんは父親が経営していた会社とは関係ないとはいえ,Aさんの父親が負担していた連帯保証債務を相続していると思いますので,会社の債務を全額返済しなければいけないのではないでしょうか。
この事例を聞いた太郎さんの見解
たしかに,Aさんは父親の連帯保証債務を相続していると思いますが,Aさんだけが相続人ではないので,Aさんの相続分だけを返済すれば足りると思います。
弁護士の見解
このケースでは,Aさんは,会社の債務を全額返済する必要まではありません。
たしかにAさんの父親は,会社の債務を連帯保証していたので,会社の債務を全額返済する義務を負っていました。しかしながら,金銭債務のように分けられる債務は相続分に応じた割合で相続人に分割されます。そのため,Aさんは,会社の債務のうち,自分の相続分である6分の1を返済する義務を負っているに過ぎないことになります。
そもそも連帯保証というのは債権者が主債務者(お金を借りている者)にも連帯保証人にも債権全額の返済を請求できるようにすることで,より返済を受けやすくするという担保として利用されています。そのため,その担保力を損なわないようにするために相続人全員に対して,全額の返済を請求できるという考え方もあるんですが,そうすると相続という偶然の事情で相続人の数だけ連帯保証人の数が増えることなって債権者に過大な担保を与えることになりますので,一般には,相続人は相続分についてのみ責任を負うと考えられています。
花子さんからの質問
Aさんは会社の債務の6分の1を負担しなければならないということですが,プラスの財産を相続するときには,どのように相続するのかを相続人間で決めることができると思いますが,マイナスの財産は誰が負担するか相続人間で決めることはできないのでしょうか。
弁護士の回答
マイナスの財産を誰がどれだけ負担するのかを相続人間で決めることはできます。しかしながら,それはあくまで相続人間の対内的な取り決めであって,対債権者との関係では効果はありません。先ほど言ったように,金銭債務のような分けられる債務については,対債権者の関係では相続分の割合で相続人の間に当然に分割されます。そのため,相続人間で負担割合を決めたとしても債権者から相続分に応じた返済を請求されればそれに応じなければいけません。ただ,相続人間で取り決めをした負担部分以上に債権者に返済をした場合には,他の相続人に負担部分を超えた返済部分については返還を請求することができますので,マイナスの財産の負担について取り決めをすることが全く意味がないということではないと思います。
※本記載は平成30年11月24日現在の法律・判例を前提としていますので,その後の法律・判例の変更につきましてはご自身でお調べください。