「遺贈(いぞう)」(民法964条)とは,遺言によって,遺産を他の人に譲ることを言います。これには,ある特定の財産を渡す「特定遺贈」と,遺産の全部あるいは何分の1という形で財産を渡す「包括遺贈」という種類があります。そして,裁判例上,特定遺贈の場合は,遺産分割協議を経る必要はないと考えられており,包括遺贈の場合は,遺産分割協議を経る必要があると考えられています。
事例
BさんはAさんの古くからの友人であり,40年近くにわたって親交を続けてきました。Aさんは,最近体調の悪化を感じており,もし自分が亡くなった場合には,Bさんに何か形見を受け取ってもらいたいと思うようになりました。そこで,Aさんは遺言書を作成し,その中で,自己が所有する絵画1点(時価300万円)をBさんに遺贈する旨の記載をしました。
数カ月後,Aさんが亡くなり,Aさんの相続人の間で遺産分割がなされようとしたところ,Bさんも遺産分割協議に参加しなければならないのではないか,との意見があがりました。
Bさんは,遺産分割協議に参加することなく絵画を取得することができるでしょうか。
この事例を聞いた花子さんの見解
絵画もAさんが亡くなる前に持っていた財産なので,Bさんは遺産分割に参加しなければならないと思います。
この事例を聞いた太郎さんの見解
Aさんが,わざわざ遺言書でBさんに絵画を譲ると書いている以上,Bさんは遺産分割に参加しなくても絵画を取得できると思います。
弁護士の見解
今回のケースでは,Bさんは遺産分割協議に参加しなくても,絵画を取得することができると考えられます。
今回,Bさんは「遺贈(いぞう)」(民法964条)という行為を行っています。遺贈とは,遺言によって,遺産を他の人に譲ることを言います。これには,ある特定の財産を渡す特定遺贈と,遺産の全部あるいは何分の1という形で財産を渡す包括遺贈という種類があります。
そして,遺産分割の手続は,相続人が財産を取得するために必要となるものですが,裁判例上,特定遺贈の効力は,遺言の効力発生と同時に生じるため,遺産分割協議を経る必要はないと考えられています。
今回のケースでの遺贈も特定遺贈であると考えられますので,Bさんは遺産分割協議を経ることなく,絵画を取得することができます。
花子さんの質問
もし,今回のケースでAさんの遺言が「Bさんに遺産の3分の1を取得させる」といったものだったら,先ほどの「包括遺贈」になると思うのですが,この場合は特定遺贈の場合と比べて,どのような違いが生じるんでしょうか。
弁護士の説明
包括遺贈の場合には,遺贈を受けた者は,相続人と実質的に同じような立場になるため,民法上,相続人と同一の権利義務を有するとされています(民法990条)。したがって,包括遺贈を受けた人が財産を取得するには,特定遺贈と異なり,遺産分割協議を経る必要があります。
さらに,亡くなった方に債務があった場合には,包括遺贈を受けた人は,その債務まで自己の取得割合に従って負担しなければなりません。債務の負担を免れるためには,相続人と同じく,相続の開始を知ってから3カ月以内に,家庭裁判所に対して相続放棄の手続をとる必要があります(民法915条1項)。
このように,特定遺贈と包括遺贈にはその内容に大きな違いがあるのですが,遺贈がどちらの形式であるか判断が難しい時は,遺言の文言やその他の一切の事情が考慮されることになります。例えば,「土地・建物,家財道具一切を挙げて遺贈する」として,ある程度具体的な財産の内容を文言上挙げていたとしても,遺言者は包括遺贈をする意思であったと認定された例があります(高松高判昭和32年12月11日)。ですので,遺言書を書かれる際には,文言に十分に注意を払う必要があります。もしも遺言書の作成につきお困りの際には,お近くの専門家の方にご相談をされるのがよいと思います。
※本記載は平成31年2月2日現在の法律・判例を前提としていますので,その後の法律・判例の変更につきましてはご自身でお調べください。