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相続

相続放棄と連帯保証

相続人全員が相続放棄をした場合には,法律上,相続人が誰もいないのと同じように扱われることになります(民法第939条)が,この場合でも,相続財産は相続する人がいない形でそのまま残ることになります(民法第951条)。そして,亡くなられた方が負っていた債務も,これに含まれ,そのまま残ることになり,その連帯保証債務もそのまま存続することになります。

相続放棄と連帯保証

事例

 Bさんは,長年勤めていた会社を定年退職した後,家族の反対を押し切り,昔からの夢であった飲食店の経営を始める計画を立てました。そのための資金には退職金を全額充てましたが,開業のためにはどうしても後500万円が足りませんでした。
 困ったBさんは,遊び仲間であるCさんに相談したところ,CさんはBさんの話にとても乗り気になり,「お金を借りるのであれば,俺が保証人になってもいい。その代わり,分け前は弾んでくれよ。」等と言い,知り合いの実業家のAさんをBさんに紹介しました。
 Aさんは,計画を思いとどまるよう強くBさんを説得しましたが,Bさんの決意は変わらず,2人からどうしてもと頼まれたため,Cさんを連帯保証人とし,やむなくBさんに500万円を貸し付けました。
 その後,Bさんは飲食店の経営を始めましたが,案の定,経営不振が続き,自暴自棄になったBさんはお酒の飲みすぎで体調を崩し,そのまま亡くなってしまいました。
 Bさんの相続人はBさんの奥さんと子供だけでしたが,全員が相続放棄をしたため,AさんはCさんに500万円の支払いを請求しました。ところがCさんは,「俺は初めからBさんの開業には反対していたし,家族が全員相続放棄したのだから,そもそもBさんの債務が無くなっているはずだ。」等と言って支払いに応じてくれません。
 AさんはCさんに500万円の返還を求めることが出来るでしょうか。

この事例を聞いた花子さんの見解

 私は,Bさんの相続人がいなくなってBさんの債務自体が消滅していると思いますので,AさんはCさんに返済を請求することは出来なくなると思います。

この事例を聞いた太郎さんの見解

 私は,Bさんが亡くなられたというような偶然の事情で,AさんがCさんにも請求できなくなるというのはAさんにとって酷であると思いますので,AさんはCさんに返済を請求できると思います。

弁護士の見解

 今回のケースでは,AさんはCさんに返済を請求できると考えられます。
 確かに,相続人全員が相続放棄をした場合には,法律上,相続人が誰もいないのと同じように扱われることになります(民法第939条)。しかし,この場合でも,相続財産は相続する人がいない形でそのまま残ることになります(民法第951条)。そして,亡くなられた方が負っていた債務も,これに含まれ,そのまま残ることになります。
 したがって,亡くなられた方が負っていた債務についての連帯保証債務もそのまま存続することになります。
 以上より,今回のケースでは,Bさんの債権者であったAさんは連帯保証人であるCさんにお金を返してくれるよう請求することが出来ます。
 このように,債務者が亡くなられてもそれによって連帯保証債務が消滅することにはなりませんので,債務の連帯保証をする際には十分に注意をする必要があります。

花子さんの質問

 今回のケースで,CさんがAさんに対して500万円を支払った場合,CさんはBさんの奥さんや子供に対して,その分の500万円の支払いを求めることは出来るのでしょうか。

弁護士の回答

 今回のケースでは,Bさんの相続人が皆さん相続放棄をしたため,Bさんの主債務者としての地位を相続した人が誰もいないことになります。連帯保証人の求償権の行使は主債務者に対してなされるものであるため,今回のケースではCさんがBさんの家族に対して求償権を行使することは出来ないと考えられます。
 ただ,仮にBさんにいくらか相続財産があったのであれば,Cさんは,裁判所にBさんの相続財産管理人を選任してもらうことで,自分が支払いをした500万円の一部を支払ってもらえる可能性があります。相続財産管理人はBさんの財産をお金に代えて,その範囲で債権者に対して返済をすることになります(民法929条,957条2項)。今回のケースでは,Bさんの相続人が皆さん相続放棄していることからBさんには財産より借金の方が多かったと思われるので,全額を返済してもらうことはできないと思いますが,Bさんの財産がどれくらいあるか次第ではあるものの,一部については返済をしてもらえる可能性はあります。

※本記載は令和元年5月25日現在の法律・判例を前提としていますので,その後の法律・判例の変更につきましてはご自身でお調べください。

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