地域への貢献を目指す安心と信頼の法律事務所 西川総合法律事務所
相続

内縁の妻の居住権

内縁の妻は法律上の妻ではないことから内縁の夫の財産を相続することはできません。しかし,内縁の夫が亡くなった場合に,相続人側の明け渡しを求める必要性や内縁の妻が明け渡しをすることによって被る家計上の打撃などを考慮して,相続人から内縁の妻に対する自宅の明渡請求は権利の濫用であり,認められないと判断した裁判例があります(最高裁昭和39年10月13日判決)。

内縁の妻の居住権

事例

 Aさんは婚姻届は提出していないもののBさんと20年ほど2人で暮らしており,事実上の夫婦関係にありました。BさんはAさんと出会う前に離婚したことがあり,2人の子どもがいるということはAさんも聞いていましたが,Aさんはその子どもたちと会ったことはありませんでした。AさんとBさんはBさん名義の自宅で穏やかに暮らしていましたが,先日,Bさんが急病で亡くなってしまいました。
 AさんはBさんの葬儀で初めてBさんの子どもたちと会いましたが,そこでBさんの子どもたちから「父とAさんが住んでいた家は私たちが相続することになるので,出ていってもらいたい。」と言われてしまいました。
 突然,20年ほど暮らしていた自宅を出て行くように言われても行く宛のないAさんは困ってしまいました。Bさんの子どもたちはそれぞれ結婚もして自分の家を持っているようなので,このままAさんは自宅に住み続けたいと考えています。
 Aさんは自宅を出ていかなければならないのでしょうか。

この事例を聞いた花子さんの見解

 AさんとBさんが婚姻届を提出しておらず,事実上の夫婦関係に過ぎないので,AさんはBさんの財産を相続できないと思います。ですので,Bさん名義の自宅は子どもたちが相続して,Aさんには何の権利もないと思いますので,Aさんには酷なことだとは思いますが,出ていかなければならないのではないかと思います。

この事例を聞いた太郎さんの見解

 事実上の夫婦関係だったとしても20年も一緒に住んでいた自宅をBさんが亡くなったら出ていかなければならないというのはAさんにあまりに酷だと思います。BさんもAさんが自宅を出ていくことを望んでいたとは到底思えませんので,Aさんの居住権は保護されると思います。

弁護士の見解

 今回のケースでは,Aさんは自宅を出ていかなくても良い可能性があります。
 たしかにAさんはBさんとは内縁関係で法律上の夫婦ではないことからBさんの財産を相続することはできません。あくまで相続人となるのは法律上の配偶者や親子,兄弟姉妹です。そのため,自宅を相続するのはBさんの2人の子どもということになります。
 しかしながら,内縁の夫が亡くなると同時にそれまで平穏に暮らしていた内縁の妻が自宅を出ていかなければならないとなれば,あまりに酷なことだと思います。そのため,相続人側の明け渡しを求める必要性や内縁の妻が明け渡しをすることによって被る家計上の打撃などを考慮して,相続人から内縁の妻に対する自宅の明渡請求は権利の濫用であり,認められないと判断した裁判例があります(最高裁昭和39年10月13日判決)。他にも内縁の夫と内縁の妻との間で内縁の妻が亡くなるまで無償で自宅を使用させるという合意があったと考えて自宅を明け渡さなくても良いと判断した裁判例もあります(大阪高裁平成22年10月21日判決)。
 今回のケースでは,Bさんが自分が亡くなった後に20年間一緒に住んでいたAさんが自宅に住めなくなることを想定していたとは思えませんし,Bさんの子どもたちには自分の自宅があるようですので,Aさんが自宅に住み続けることができる可能性は十分にあると思います。

太郎さんの質問

 内縁の妻がこのようなトラブルに巻き込まれないようにするためにはどのようにしておけばよいのでしょうか。

弁護士の説明

 BさんがAさんに自宅を取得させるという遺言書を作成しておくべきです。
 そうすれば,Aさんは自宅を取得できるためこのようなトラブルは起こりません。
 ただし,お子さんたちには遺留分といって一定割合の遺産を相続できる権利が保障されています。お子さんが相続人のケースでは,遺産の全体の1/2が遺留分の対象となります。ですので,お子さんたちが遺留分を主張してきた場合には,遺産全体の1/2をお子さんたちに渡さなければなりませんので,自宅以外に財産がない場合などは注意が必要です。

※本記載は令和元年9月14日現在の法律・判例を前提としていますので,その後の法律・判例の変更につきましてはご自身でお調べください。

法律相談事例一覧に戻る