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相続

失踪宣告

行方不明で7年間生死不明のため失踪宣告を受けた失踪者(民法30条1項)が,生きていたことが判明した場合,失踪者等は,家庭裁判所に失踪宣告を取り消すよう求めることができ(民法32条1項前段),相続人が相続によって得た権利は消滅します(民法32条2項)。ただ,失踪宣告が事実と異ることを両者ともが知らずに行った行為については,失踪宣告の取消の影響は及びません(民法32条1項後段)。

失踪宣告

事例

 Aさんは1人で海外を旅行するのが趣味であり,海外で集めてきた珍しい品を自宅の自室に大切に保管していました。
 Aさんは幼馴染のBさんと結婚しており,Bさんは,事あるごとにAさんが海外に行くことに反対していましたが,Aさんの外国に対する情熱が覚めることはありませんでした。そのような中,ある日,Bさんが目を覚ますと,「旅に出ます。」との書置きだけを残してAさんは家を出て行ってしまっていました。BさんはAさんの行先をあらゆる手段を使って探しましたが,行先を突き止めることはできず,Aさんは一向に帰ってきません。
 心の広いBさんは,その後,何年もAさんの帰りを待ち続けましたが,7年が過ぎた段階で,法律に詳しい友人から,失踪宣告という,ある人の生死不明が一定期間続いた場合に,その不在者を死亡した者とみなす制度があることを聞き,これ以上Aさんを待つのも限界であったことから,裁判所で失踪宣告に関する手続をとりました。
 Aさんの部屋にはAさんが集めてきた品が残っていましたが,Aさんを相続できるのはBさんしかおらず,Bさんはこれらの品を見ているのがつらかったことから,Aさんの古い旅行友達であったCさんに事情を話したところ,2人ともAさんが生きて戻ってくることはないと考えたことから,Cさんがこれらの品を引き取ることになりました。
 しかしながら,その1か月後に,Aさんはひょっこりと自宅に帰ってきました。そして,Bさんから事情を聴くと,突然怒り出し,CさんにBさんから受け取った品を返して欲しいと言いだしました。Aさんの主張は認められるでしょうか。

この事例を聞いた花子さんの見解

 Aさんが実際に生きて家に戻ってきた以上,まだ手元にAさんの品を持っているCさんはAさんにその品を返還しなければならないと思います。

この事例を聞いた太郎さんの見解

 Cさんは,7年も戻ってこなかったAさんが今更戻るとは思わなかったからAさんの品物を譲り受けたので,もはやAさんに品物を返還する必要は無いと思います。

弁護士の見解

 今回のケースでは,CさんはBさんから譲り受けた物品をAさんに返還する必要は無いと考えられます。
 失踪宣告とは,先ほどの事例の中で述べられたように,ある人が行方不明になり,その期間が一定期間を超えると,一定の条件下で,その人を死亡したものとみなす制度であり,配偶者等が家庭裁判所に失踪宣告を求めることができます。そして,行方不明になった人の生死が7年間明らかでない場合には,失踪宣告を求めることができます(民法30条1項)。したがって,今回のケースにおけるAさんも死亡したとみなされることになり,Aさんの財産についても,唯一の相続人であるBさんが相続することになります。
 しかしながら,その後,Aさんが生きていたことが判明したような場合には,AさんやBさんは,家庭裁判所に失踪宣告を取り消すよう求めることができ(民法32条1項前段),その結果,Bさんが相続によって得た権利は消滅します(民法32条2項)。そうなると,CさんもBさんから譲り受けた物品をAさんに返さなければならないようにも思えますが,第三者に不測の被害が生じることを防ぐため,失踪宣告が事実と異なったものであったことを両者ともが知らずに行った行為については,失踪宣告の取消の影響は及ばないとされています(民法32条1項後段)。
 今回のケースでは,BさんもCさんもAさんが生きていたことを知らなかったことから,CさんはAさんに品物を返還する必要は無いと考えられます。

花子さんの質問

 Aさんの財産がどうなるかについては分かりましたが,もしもBさんが,出て行ったAさんに愛想を尽かした場合には,Bさんは他の人と結婚することも出来るのですか?

弁護士の回答

 失踪宣告がなされるとAさんは死亡したとみなされることから,Bさんは他の人と結婚できるようになります。今回のようにAさんが失踪宣告後に帰ってきたとしても,Bさんと新たな配偶者がAさんの存命を知らないのであれば,失踪宣告が取り消されたとしても,Bさんと新たな配偶者の結婚は有効となります。
 また,法律上,配偶者の生死が3年以上不明であれば離婚をすることもできますので(民法770条1項3号),Bさんは,7年も待たなくても離婚訴訟で離婚判決をもらうことで,他の人と結婚することができます。

※本記載は令和元年9月28日現在の法律・判例を前提としていますので,その後の法律・判例の変更につきましてはご自身でお調べください。

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